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ソフトバンクが5G通信の実験を公開

第5世代の携帯電話通信方式、いわゆる5Gの実験をこのほどソフトバンクが公開した。5Gの周波数帯がまだ決まっておらず、3.7/4.7GHz帯、28GHz帯、さらにミリ波の60〜70GHz帯などが候補に上がっている。これらの周波数帯を使った実験をNTTドコモなどが先駆けて行ってきたが、ソフトバンクも負けずに128本MIMO技術をすでにLTEに取り入れた。

図1 5Gのレーダーチャート 全てを満足する必要はなく応用によって性能は変わる

図1 5Gのレーダーチャート 全てを満足する必要はなく応用によって性能は変わる


5Gでは、データレートが最大10Gbps、レイテンシ(応答時間遅れ)が1ms、1/10の低消費電力、が特長と言われているが、これらは全てANDの関係ではない。例えば、高速で移動しているクルマや新幹線などはこれらを満たさない。図1のようにレーダー図で表現するように、どれか一つに近づいているだけでよい。ただし、LTEよりは高い要求を満たしている必要がある。

これらの技術の中で、ソフトバンクは128本という超並列のマッシブMIMO(multiple input multiple output)アンテナ技術をLTEで適用して来た。いわゆる高速通信を売り物にしたサービス提供を始めた2016年9月に発表している(参考資料1)。昨年は3.7GHzでのフィールド実験、今年からは28GHzでのフィールド実験を済ませており、今回は4.7GHzを使った屋内公開実験となった。


図2 電波が外に漏れない電波暗室で電波を送受信した

図2 電波が外に漏れない電波暗室で電波を送受信した


4.7GHzの電波の発信となると、電波法で禁じられているため、電波の漏れない電波暗室(シールドルームよりも頑丈)で電波を飛ばし(図2)、受信機からは有線で外に配線を取り出している。中心周波数4.74GHz、帯域幅100MHzの受信信号をディスプレイで表示している(図3)。この送受信実験では、128本のMIMO平面アンテナを使って送信している。


図3 帯域100MHzの受信波形を示している

図3 帯域100MHzの受信波形を示している


もう一つの実験は、応答時間の短さを示した。実験では、パックを空気で浮かせるエアホッケーゲーム台にロボットアームと人間が対戦するもの(図4)。これは、台の上に取り付けたカメラがパックの位置を認識、その軌道を計算し、ロボットアームを動かしてパックをゴールさせない、という一連の動作がほぼリアルタイムでできることを示した。実験では人間がホッケーのパックを打ち、ロボットアームがゴールに入れさせないように動かしたが、人間(記者)が打つパックを全て防いだ。


図4 エアホッケーゲームでロボットが人間と対戦

図4 エアホッケーゲームでロボットが人間と対戦


この実験では、カメラ画像からパックの進むべき軌道を計算するサーバの遅延が最も大きく100ms、そのデータをロボットアームに送る無線伝送遅延(ここが5G通信)が2msと最も小さく、伝送されたデータからロボットアームを動かすための制御サーバの遅延は20msだった。この実験では結局サーバの遅延が大きく影響したが、5G伝送の遅延は2msしかなかった。5G通信の低遅延の応用として、同社はコネクテッドカー、ドローンの自動操縦、ファクトリオートメーションを掲げている。

最後に、4Kのビデオ映像を800Mbpsのデータレートで送り、受信するという実験もあったが、きれいな映像が見えただけで、大きなインパクトはなかった。高精細の映像を望遠で拡大してもはっきり見えるため、広いイベント会場などで迷子の探索などに有効だとしていた。また4台のカメラを使って180度のパノラマを描くデモもあった。ここでは画像、映像を合成する技術が必要であったが、5Gの伝送という観点からはインパクトの乏しいものであった。この実験でも、高精細カメラデータを圧縮し、無線で伝送し、受信したのち伸長しディスプレイに表示する、という一連の動作が必要である。

これらの実験などでみられるように、映像や画像を処理するためのサーバを基地局のそばに置くエッジコンピューティングの可能性は、5Gで否定できないとしている。今回はミリ波の実験は見せなかったが、同社内部ではテストを行っているという。また、同社は5Gの展開を見据えてコネクテッドカーに使う技術として、ドイツのBMW・Audi・DaimlerクルマメーカーとIntel、Qualcommの半導体メーカー、さらにEricsson・Nokia・華為の通信機器メーカーが設立した「5G Automotive Alliance」にも加盟したという。

参考資料
1. ソフトバンク、128本のマッシブMIMOを商用化、容量20GB/月を可能に (2016/09/09)

(2017/09/21)

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