Semiconductor Portal

» セミコンポータルによる分析 » 技術分析 » 技術分析(半導体応用)

Wind River、IoT解析ツールをRTOSに組み込む

IoTは、単なるセンサ端末だけの市場ではない。センサからのデータをクラウドで収集・管理・分析して端末を設置した顧客へフィードバックすることで初めて価値を生む。データ処理・見える化を受け持つソフトウエアプラットフォームは欠かせない。Intelの一部門となったWind Riverは、データ解析ソフトAXON PredictをRTOSのVxWorksに組み込んだ製品を発売した。

IoTは、単なるセンサやマイコン、送信機能を持つ端末だけを設計・製造しても価値を生まない。センサからのデータをクラウドで収集・管理・分析することによって、データは情報に変換される。この情報を、顧客が見える化することで初めて価値を生む。データ処理や見える化を簡単に設定するためのツールがPaaS(Platform as a Service)と呼ばれるソフトウエアプラットフォームだ。半導体メーカーや端末メーカーはこのPaaS企業と提携し手を組むことで、顧客に必要な情報を提供でき、価値を生むことができる。

このPaaSとしてのソフトウエアプラットフォームで工業用のIndustry 4.0に向いた最も有名な製品がGE(General Electric)のPredixであり、Analog Devicesとパートナーを組んでいるPTCのPTC ThingWorxである。Intelは提携よりも買収を選び、リアルタイムOSのVxWorks製品を持つWind River社を丸ごと買った。このため、IoTシステムにおいてデータの分析と見える化ソフトを作るためのソフトウエアツールAXON Predictを自前で持つことができる。いわばIntelはIoT向けチップとソフトウエアツールを提供できる立場にある。同時に、Wind Riverとしてもユーザーが自分のIoTシステムのどのようなデータを得て売上増や生産性向上につながる「情報」を得るためのツールAXON Predictを一般市場へ販売する。


図1 Wind River社VP兼Simulation and Ops Systems Business Unit General ManagerのMichel Genard氏

図1 Wind River社VP兼Simulation and Ops Systems Business Unit General ManagerのMichel Genard氏


ユーザーは、RTOSに組み込まれたIoTデータ分析ツールAXON Predictだとそのまま使えるため、使い勝手がよく、自分でデータを分析し、それを可視化できるようになる。このため、エッジでもクラウドでもどちらでも使える。Predixのようなソフトウエアツールは、クラウドで使うことが原則であり、「トップダウン的なツール」(Wind River社VPであり、Simulation and Ops Systems Business UnitのGeneral ManagerでもあるMichel Genard氏)であり、使い勝手はRTOS込みのAXON Predictの方が優れているという(図1)。

AXON Predict+VxWorksは、IoT端末のモニタリングができ、ミッションクリティカルな部品やデバイスの状態や性能を測定することによって、状況ベースの保守を可能にする異常検出ソリューションを提供する。VxWorksのアプリケーションは、解析エンジンによってモニターしてきたパターンと行動から学習し、センサデータのストリームに基づきインテリジェントな行動をとるという。

AXON Predictを使ってできることは、予防保全(Predictive Maintenance)は言うまでもなく、自己修復機能や安全でセキュリティの確保も行う。予防保全では、マシンラーニングに基づく最適なソリューションを提供し、これまでの履歴パターンに基づいて今後の行動パターンを予測するため、前もって構築されたパターンと質問を使って予測を分析する。自己修復機能は、デバイス上で自律的に作用する。マシンラーニングは、これまでの入力データや故障、異常などを予め観測していたパラメータに適用することによって行う。安全性が問題になる前に、安全性が損なわれる可能性をモニターし、プロアクティブにそれらに対処する。セキュリティでは、リアルタイム解析エンジンがエッジでの侵入を同定し、正しく設定する。


図2 AXON PredictをインストールしたVxWorks Workbench 出典:Wind River

図2 AXON PredictをインストールしたVxWorks Workbench 出典:Wind River


実際にこのソフトウエアツールを使う場合には、VxWorks Workbench(図2)を利用してビジュアルに解析を行う。マシンラーニングをデバイスに簡単に適用できる。また、リアルタイムのモニターも可能で、ストリーミングデータをビジュアルに見ることができる。このWorkbenchには使い勝手の良いパターンライブラリと、複雑な質問を作るための設定可能なインターフェースも備えている。

エッジでリアルタイムの解析を行い、自律的にアクションをとることができる。このシステム構成を簡単に説明すると(図3)、VxWorksのアプリケーションからいろいろな質問を分析エンジンンに投げかける。例えば、消費電力は正常な値か、不具合はあるのか、メモリが正しい場所に書かれているか、などユーザーのデバイス(PLCでもコントローラ、CPUの入った自動販売機でもよい)からのセンサデータに基づく質問を投げかける。分析エンジンはスマートなアルゴリズムに基づいて、その答えをVxWorksアプリに戻す。例えば、温度が上がっているならCPUの周波数を下げて消費電力を下げるような指示をアプリに戻し、アプリからUI(デスクトップでもクラウドでもどちらでも構わないが)に上げ、その状況を可視化し、次のアクションにつなげる。例えば、さらに消費電力を下げるべきか、もう十分なのか、という判断を行う。


図3 VxWorks上で分析エンジンとアプリとのやり取りから動作のモニターを行う 出典:Wind River

図3 VxWorks上で分析エンジンとアプリとのやり取りから動作のモニターを行う 出典:Wind River


このツールが狙う市場は産業用で、化学プラントや通信インフラ、製造業、宇宙・防衛、エネルギー、医療・健康、政府関係、食品・農業、金融、IT、交通、上下水道、ダムなどの公共施設などの分野を狙っている。まさにIndustry 4.0そのものの市場である。

(2017/08/30)
ご意見・ご感想