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ビジネスになりつつあるIoTシステム

IoTをしっかりとしたビジネスにするためには、IoT端末、クラウドでのデータの取り扱い、アプリ開発、といった一連のIoTシステムを構築しなければならない(図1)。このためのクラウドプラットフォームを構築し、サービスを提供する企業が相次いでいる。米国シリコンバレーを拠点とするAyla Networksと英国のTelit Wireless Solutionsは、企業向けのIoTサービスを日本でも展開する。

図1  IoTシステムはセンサ端末からゲートウェイ、クラウド、ビッグデータ解析、データ可視化といった一連のループを構成する

図1  IoTシステムはセンサ端末からゲートウェイ、クラウド、ビッグデータ解析、データ可視化といった一連のループを構成する


データの整理・解析サービスやアプリケーションソフトウエアの顧客も、IoT端末の顧客も同じ企業である。このためIoT用の半導体だけを開発しても、顧客はつかない。こういった一連のエコシステムに参加し、パートナーと一緒に顧客を獲得してはじめてIoT向け半導体はビジネスとなる。IoT端末向けの半導体メーカーにとって、エコシステムに参加することはマストである。

Ayla(エイラと発音)が提供するPaaS(Platform as a Service)サービスは、IoT端末のセキュリティを保証し、クラウドベースのソフトウエアプラットフォームを利用してユーザーの目的とする業務(機械や使用部品の稼働状況をリアルタイムで知ること)をスマートフォンでモニターできるようにするというもの。Aylaは2010年創業以来、IoTという言葉がまだ普及していなかったときから、インターネットへの接続を通してクラウドベースでのアプリ開発やデータの整理などを行うサービスを目指してきた。対象とする製品は白物家電であった。このため同社のCEOであるDavid Friedman氏は自らを、ガレージ起業ならぬ、キッチン起業と呼んでいる。

白物家電をインターネットにつなげてどうするの、という意見は多いが、家電メーカーにとっては実はメリットが大きい。製品の使われた時刻や時間、頻度、周囲温度、時期などのユーザー情報と、例えばエアコンならモータやコンプレッサの振動や埃の状況、回転数、温度などをモニターし、製品データとして収集しておく。さまざまなデータを解析することで、次の新製品の開発に活かすことができる。これまでの消費者向け製品開発では、一般消費者の意見を聞くためアンケートを取り、解析したり、フォーカスグループを利用したヒアリング調査などを行ったりしてきたが、IoTシステムを使えばその必要はなくなる。一般消費者にとってもエアコンやシーリングファンなどがスマホとつながっていれば、外出先からスマホのアプリを通して温度やファンの回転数などを調整できるというメリットがある。

一方で、クラウドサービスとしては、アップルやグーグル、アマゾンなどが構築しているが、彼らは独自のセキュアなクラウドを構築し、ユーザーはクラウドを意識することなくサービスを利用できる。音声認識のSiriなどはその典型だ。ただ、一般の製造業や中小企業が独自に高信頼性・高アベイラビリティ・高セキュリティなクラウドを構築することは難しい。そこで、アマゾンが提供する安全でセキュアなクラウドを利用して、製造業や中小企業の生産性向上や売り上げ向上を支援するサービスがAylaの提供するクラウドでのプラットフォームとなる。

そのプラットフォームでは、ユーザー(製造業や中小企業)が自由に家電製品を設定したりデータを解析できたりするようなツールを提供する(図2)。Aylaはユーザーの製品(IoT端末付き)ごとに一つのプラットフォームで設定からデータ収集・分析までのツールを提供するため、ユーザーは自分でクラウドを構築しIoT端末との接続や認証などに煩わせることがなく、自社製品開発に集中できる。これまでに富士通ゼネラルのエアコン、Hunter社のシーリング(天井)ファン、Brinks社のデジタルドアロック、Dimplex社の冬用ヒーター装置などの実績がある。富士通ゼネラルの製品にはWi-Fiモジュールが搭載されており、今年の中ごろには製品が市場に出てくる見通しだという。


図2 Aylaのクラウドベースのソフトウエアプラットフォーム 出典:Ayla Networks

図2 Aylaのクラウドベースのソフトウエアプラットフォーム 出典:Ayla Networks


Aylaのプラットフォームのコンポーネントは3つある。一つはIoT端末に暗号ソフトなどを焼き付けて、クラウドとセキュアな通信ができるようにすること、二つ目はアマゾンのクラウド上でAylaが提供するAPIを使って顧客は自社製品に合う設定を行うこと、三つ目はIoT端末を取り付けた家電製品をスマホやタブレットでモニターするためのアプリ開発のツールを提供すること、である。特にクラウドとアプリ開発で、顧客は独自の製品に独自の設定を行い、他社との差別化を図ることができる。

AylaのIoT端末はルネサスのマイコンや村田製作所のWi-Fiモジュールを利用するため、これらの企業とパートナーシップを結んでいるが、TelitはIoT端末そのものを提供する。もともとTelitは欧州でM2M(Machine to machine)通信モジュールを開発販売してきた。IoTシステムでもこの通信モジュールを使い、モバイルネットワークを使ってインターネットにつなげることが可能だ。Telitの通信モジュールでは、その大きさをある程度規格化しているが、その品種は多い(図3)。

図3 Telitが提供するIoTモジュールは種類が多い M2Mでモバイルネットワークからインターネットにつなぐ

図3 Telitが提供するIoTモジュールは種類が多い M2Mでモバイルネットワークからインターネットにつなぐ

2015年12月にTelitは日本法人Telit Wireless Solutions Japanを設立したが、法人設立するまで日本オフィスとして3年くらい活動を続けてきた。日本の顧客にはゲートウェイルータやパソコンメーカー向けに力を入れてきた。TelitはM2Mモジュールに加え、かつて買収したILS Technologyが持っていた半導体製造用のセキュリティソリューションsecureWISE(参考資料1)のIoT版deviceWISEをIoTクラウド向けのプラットフォームとして揃えている。半導体用secureWISEは専用回線を使って秘密保持を最優先していた。

IoT用のdeviceWISEも接続用にM2Mモジュールを使い、クラウド上でデータ管理を行いやすいAPIを提供する。データ管理APIには認証フレームワークでリアルタイムに認証しプラットフォームをセキュアに守り、データそのものは256ビットの暗号化で守っている。セッション管理やモニタリングなども可能になっている。

さらにカスタマイズしたり、データを可視化したりするためのアプリケーションソフト開発のツールも含んでいる。また、IBMやSAP、OracleなどERPプラットフォームを使っている起業ではクラウド同士を結合するためのサービスも提供する。


参考資料
1. 半導体工場のビッグデータをセキュアに守るシステムをTelitが提供 (2015/11/18)

(2016/05/20)

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