過去の大量のデータから改善策を見つけるAIシステムを日立が開発
過去の大量の実績データを活かし、フィードフォワード的に業務改善を指示するシステムを日立製作所が開発した。「人工知能(AI)」と呼ぶこのシステムを使い、物流業務に適用したところ、業務効率が8%向上したとしている。
図1 需要変動があっても過去の例を学習しているの自動的にプログラムを書き換える
このシステムは、従来のノイマン型コンピュータを使いながら、過去の膨大なデータと現在の業務を比較し、特長を抽出する方程式を自動的に導き、最適な指示を出すという仕組みを持つ。マシンラーニングやディープラーニングといったニューラルネットワークなどの非ノイマン型コンピュータを使う訳ではない。従来の市販のサーバを使い、特長を顕在化させ、モデル化し、方程式を作る。
従来の業務改革システムでは、過去の業務データを従業員へのヒアリングなどを通し、SE(システムエンジニア)が解析し、プログラムを変えていた。今回のシステムを使えば、解析用のSEは要らない。また、現場の業務では、定期的な季節変動に加え、急激な需要変動もあるが、急激な需要変動は予測が難しく、その都度エンジニアがプログラムを書き換えていた(図1)。今回のシステムでは、依頼された業務と類似した過去のデータを選択し学習しながら、逐次プログラムを更新していく。
さらに、このシステムでは、さまざまな形式のデータを素早く取り込むことができるという特長もある。一般手に業務データは表形式で数値だけではなく文字や記号が混在しているため、データ解析には業務知識を持つ専門家が仕分けする必要があった。今回のシステムでは、統計分布や表記の揺れなどの特徴を抽出、文字列表記パターンを判別、数量や時間、順序、名義などを判別するとしている。
この人工知能システムでは、期待する出力(アウトカム)とそれに関係する顧客の行動や、店舗や企業の運営、業務環境などのビッグデータとの関係を自動的に計算している(図2)。データは膨大である。例えば、顧客の行動パターンでは、来店の日時・回数、取引の有無、購買の特性などがあり、運営では従業員の数や能力、作業の仕方、業務環境では店舗や工場のレイアウトや商品配置など、さまざまなデータを入力する。これらのビッグデータの自動解釈と組み合わせを生成、その中から特徴を抽出する。この後、期待する出力に関係する特徴量の絞り込みを行い、モデル化して関係式を導く。この方程式を解き、流通なら店員の配置の適正化、物流なら倉庫作業の最適化、工場プラントなら運用コストの最適化など、最適な施策を立てることができるようになる。
図2 業務改善のために顧客行動から設備まで様々なパラメータを学習する
日立は、物流倉庫での集品作業において、カートへの投入順序を最適化して作業効率を上げよう、という目的を掲げた。どの棚にどのような手順でカートを割り当てて作業したかを求め、作業時刻と特定棚の混雑との相関を求めた。その際、時間ごとのカートのデータや、各棚の週品データ、生産性の実績データなどを入力する。その結果、ある時間に棚にカートが集中し作業効率が悪くなることがわかった。このため手順を見直し最適化する。
図3 需要を大きく変動させても学習できる
さらに、この人工知能の実験では需要変動のある集品データでさえ、作業効率を上げることができることもわかった。人工知能を使わない作業時間を1とすると、これまでの経験を駆使した人工知能システムでは、常に作業時間は0.6時間で済む(図3)。そこで、ある時期から需要が大きく変動させてみると、最初は作業時間がかかってしまうが、2日程度で収束しやはり0.6時間に落ち着くようになった。この作業だけで見ると、人工知能を使うが需要変動に対応できない場合は作業時間が26%減るが、需要変動にも対応できるようにすると36%も減少した。ただし、実際の業務では集品するだけではなく、検査やトラックへの運搬作業などを含めると、8%程度の業務改善になると見積もっている。
この人工知能システムは、これまでの実績データが全くない新規の事象が起きた場合には対応できないが、需要変動があった過去のデータを大量に入力しておけば、突然の需要変動にも対応できる。
日立では、この人工知能システムを物流・倉庫などの応用だけではなく、金融や交通、製造業、ヘルスケア、コールセンターなど様々な業態へと応用していく計画だ。