ルネサス、0.2V→1.8Vの昇圧DC-DCコンと4μWで動作するマイコンを開発
究極の超低消費電力動作を目指して、ルネサスエレクトロニクスがエネルギーハーベスティング用デバイスを開発、ユーザーに提案するため、ESEC(組込みシステム開発技術展)に出展した(図1)。このデバイスは、200mVを直接1.8Vに昇圧するDC-DCコンバータと、4μWで動作するマイクロコントローラ(マイコン)だ。
図1 電波のエネルギーを電源に用いるエネルギーハーベスティング 出典:ルネサスエレクトロニクス
エネルギーハーベスティングは、自然界のエネルギーを電源として利用する究極の低消費電力技術である。日本では環境発電と訳されることもあるが、環境発電は自然界にあるエネルギーで電力を作り出すことに主眼が置かれている。エネルギーハーベスティングは自然界にある弱いエネルギーで電子回路を動かすことに注力している。環境発電によって得られる電力は非常に弱い。例えばサッカースタジアムの観客席に合計4平方メートル程度の広さに圧電素子を敷き詰めた東日本JRの実験例では、ゴールシーンの前後には観客が立ち上がるため発生する電力は高まるが、2時間のゲームの間に発電できた電力は単3電池わずか3本分だという。これに対してハーベスティング技術は、すでに欧州・米国のビル10万棟以上に導入されて、実用化されている。
今回、ルネサスが展示した技術は、無線LANやBluetooth、電子レンジなど免許不要の周波数2.4GHz帯の送信機のエネルギーを利用したものと、熱を電圧に変換する半導体であるゼーベック素子を利用したものの二つをエネルギー源として利用した。いずれも0.2V程度の電圧を1.8V程度に昇圧するが、このDC-DCコンバータはシリコン半導体技術をベースにしており、コイルを使っていない。
これまでも例えばLinear Technology社は数十mVの電圧を3V程度まで昇圧するDC-DCコンバータを出荷しているが、コイルをパッケージ内に集積しており低コスト化は期待できない。ルネサスのDC-DCコンバータはコイルを使わないため低コストにできる可能性が高い。その分、昇圧範囲はLinearに比べると狭い。
今回のデモでは、一般的な2.4GHzの送信機から電波を飛ばし、40cm程度離して受信する。図1にあるように、ごく一般的なアンテナで送受信している。その電波を受け検波整流した電圧値が0.2V前後である。受信した電波の強度は10μW。DC-DCコンバータで1.7〜1.8Vに昇圧する。この出力における電力は4μWと小さい。この電力でマイコンを動かした。ただし、図1で電圧を表示している液晶ディスプレイの電源には、別に電池を使っている。
マイコンが何ビットか説明員は語らなかったが、フラッシュメモリを搭載せず、ひたすら低消費電力を追求したという。すでにRL78マイコンを使いレモンやグレープフルーツで動作させた例をルネサスはさまざまなイベントで見せていたが、今回のマイコンはRL78ではなく、独自開発したものだとしている。
図2 ゼーベック素子を使い体温の熱と周囲温度との差でマイコンを動かす 出典:ルネサスエレクトロニクス
もう一つはゼーベック素子を使って同様な回路構成でDC-DCコンバータで昇圧するが、この場合は人間の体温(指の温度)と周囲温度との温度差をゼーベック素子が電圧に変換している(図2)。この場合もマイコンという負荷を接続した状態で電圧を測定している。ゼーベック素子自体は直列に多数個接続すると昇圧できるが、その分コストがかさむ。DC-DCコンバータの方が安価にハーベスティング回路を構成できる。
ハーベスティングシステムで消費電力をさらに減らすためには、生じた電力をコンデンサなどにある期間貯めて、短期間動作させるといった手法も使われる。例えば1秒貯めて10ms動作させるとか、デューティ比も含め低消費電力手法と、低消費電力の半導体を組み合わせて使うことで、エネルギーハーベスティングの利用が促進されていくだろう。ルネサスは今回の展示で、潜在ユーザーの要求を採り入れて実用化へ近づけたいとしている。