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クアルコム、ワイヤレス給電でスマホとカーエレとの連携探る

世界半導体3位のクアルコムは、電気自動車(EV)向けのワイヤレス給電システムを開発しているが(参考資料1)、スマートフォンや携帯電話技術に注力してきたクアルコムがなぜEVにも注力するのか、1月に東京ビッグサイトで開催されたオートモーティブワールド2013において、明らかになった。スマホとEVとの連携を狙っているのである。

図1 クアルコムはスマホとクルマの連携を図る 出典:Qualcomm

図1 クアルコムはスマホとクルマの連携を図る 出典:Qualcomm


同社は「Mobile meets mobility(モバイルとクルマとの出会い)」というキャッチコピーを用い、EVがいかにスマホと一緒に使えるものかについて、展示会に併設されたセミナーで述べた(図1)。スマホを使って、ワイヤレス給電スタンドを探したり、充電中にたまったエネルギー量や充電終了までの残り時間を確認したりすることができる。音楽やアプリケーションをスマホでダウンロードし、Bluetoothでクルマに転送、音楽をクルマのスピーカーで楽しむ。スマホのナビ機能をクルマにも使える。高価なカーナビはもはや要らない。スマホはクルマとの相性も良さそうだ。

ワイヤレス給電システムを成功させるためには、ドライバーが新しい体験をできるようなことを生み出す必要があるという。しかも低価格で提供することが条件だ。そのためには部品やECUを標準化して共通にしたり、相互運用性(インターオペラビリティ)を確保したりすることが欠かせない。インフラをできるだけ簡単にすると共に、リスクの少ない標準技術を使いながらティア1メーカーが差別化できる余地を残しておくこと、なども重要となる。

ワイヤレス給電システムに必要なハードウエアは送受信パッドだけのように思われがちだが、それら以外に、電源やシステムコントローラ、ワイヤレスで電気とデータを転送する回路、などがある(図2)。転送された電気はバッテリに蓄える。これらの回路やデバイスを全て使って充電する訳だが、クアルコムは一つのソリューションとして提供する。「これらのさまざまな技術に対して、干渉対策も織り込み済みだ」、と講演したクアルコムヨーロッパ社ビジネス開発&マーケティング担当バイスプレジデントのAnthony Thomson氏は述べる。


図2 ワイヤレス給電システムにはカーエレクトロニクスがいっぱい 出典:Qualcomm

図2 ワイヤレス給電システムにはカーエレクトロニクスがいっぱい 出典:Qualcomm


このシステムでは、駐車すると自動的に充電が始まり、ドライバーに手間をかけない。充電パッド上にクルマを止めるとまず、ワイヤレス給電に必要な高周波電力を電源装置(1)が発生させ、その高周波電力が送信パッド(2)から磁界に沿ってワイヤレス伝送される(3)。受信パッド(4)でその高周波電力を受け取り、電力変換装置(5)で直流に変換しバッテリ(6)に電荷を貯める。

クアルコムが狙う充電パッドは、簡単・便利が基本。ここに独自の磁界結合技術を使い、送信パッド上に磁界結合コイルを数個使う構成のようだ。電気自動車の持つバッテリ能力にもよるが、3.3kW、7kW、20kWの定格出力を持つ。水平方向(XY)の位置ずれ(図3)や、垂直方向のバラつきが多少あっても電力伝送できるように磁界結合効率を高めたことが特長だ。


図3 高周波電力の送信機には、オークランド大学が開発したDDQ磁束パイプ技術を利用<br />
出典:Qualcomm

図3 高周波電力の送信機には、オークランド大学が開発したDDQ磁束パイプ技術を利用
出典:Qualcomm


従来のワイヤレス電力伝送はいわばトランスの1次コイルから2次コイルへ電力を伝送することと全く同じ原理であるが、二つのコイルの距離は数mm~1cm程度しか離すことができない。また、自動車の充電用では水平方向・垂直方向とも多少ずれても伝送できなくてはならない。クアルコムは、ニュージーランドのオークランド大学が開発したDDQ(Double D Quadrature)技術を利用するため、オークランド大学内のHalo社を買収、Qualcomm Halo社とした。

この技術では、通常の50Hz/60Hzの交流を40kHz以上に変換し、この高周波電力を使って地上の送信パッド内に存在する共鳴磁界を揺るがす。DDQデザインを使って磁束パイプ(Flux pipe)の磁場を発生させることで、水平および垂直方向の位置ずれにも対応できるという。この送信パッドは地面上に置いても地下に埋め込んでもよい。磁束パイプの磁場は受信パッド内の2次コイルに渦電流を発生させることで、電力を2次コイルに伝えていく。送受信の電力効率は90%程度あるとしている。コイル同士の位置ずれが上下方向に30cm、水平方向にも30cm程度あっても電力伝送できるとしている(参考資料2)。

コイル同士は、磁気結合を利用するため、その間に金属などの導電体や磁性体があれば誤差を生じる。そういった異物検出システムも内蔵しているため、例えば駐車場で落としたコインが送信パッドに載っていると異物として検出しドライバーのスマホに知らせることができる。

クアルコムは2012年にロンドン市内ですでに実験を始めており、これからの社会に向けてスマホとの連携を探りながら、環境問題の解決の一助になることも目指している。さらに走行しながらワイヤレス給電するためのシステムも提案しており、今後はその実験も進めていく。


参考資料
1. 裏面研磨で削り取ったシリコンをリサイクルできる技術をディスコが開発 (2011/11/28)
2. Wireless Charging: The Future of Electric

(2013/02/05)

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