VoLTE技術は、高音質・低レイテンシで音声回線を不要にする
LTEは、NTTドコモの「Xi(クロッシィ)」の名称などで実用化されており、データレートが数十Mビット/秒と速いことが特長である。が、どうやらこれだけではなさそうだ。VoLTE(ボルテと発音;Voice over LTE)技術を導入することで、LTEは音声回線スイッチを使わない初めての通信ネットワークになる可能性を秘めている。半導体仕様への影響も大きい。通信機器のエリクソンがVoLTEを進めている。
図1 2012年7月時点でのLTEデバイスではルータが最も多く、次がスマホ。
出典:GSA
VoLTEの前身となるVoIP技術はいわゆるIP電話技術であり、Internet Protocolを利用する。3Gまでの携帯電話はIPを利用する回線もあるが、音声専用の回線ももちろんある。しかし、LTEでは、音声専用の回線は、VoLTE技術の普及によって不要になる可能性がある。LTEの普及が最も進んでいる国は米国、次が日本と韓国である。2012年3月時点で、米国の加入者は1000万を超え、日本と韓国は合計で550万を突破した。欧州はまだ少ない。日本が先行した3G(NTTはFOMA)時代とは異なり、LTE時代は世界と協調していける可能性はある。
ただし、世界各地で周波数がばらばらで、700MHz帯、800MHz帯、1.7GHz帯、1.8GHz帯、1.9GHz帯、2GHz帯、2.5GHz帯、2.6GHz帯などがあり、送受信方式はFDD(周波数分割二重化)とTDD(時分割二重化)の二つの方式に分かれている。世界をカバーするベースバンドプロセッサモデム半導体はプログラマブル方式が望ましいかもしれない。
現状のLTEはデータ通信だけの規格であるため、LTEスマートフォンで電話する場合にはLTEネットワークではなく3GやHSPAネットワークの、いわゆる回線切り替え(Circuit Switched)を利用する。このため、LTEのスマホには音声用の3Gモデムと、データ通信のLTEモデムの両方を搭載している。VoLTEはLTEのデータモデムを使って音声まで担おうというもの。
エリクソン・ジャパンCTO(最高技術責任者)の藤岡雅宣氏(図2)によると、VoLTEが導入されるまでに3段階を経る必要があるという。LTEがまだ十分にカバーされていない第1段階では、2Gや3Gの回線を使い音声専用の回線切り替えを利用する。LTEカバーエリアが拡大する第2段階では、LTEセル内ではVoLTEで音声通信し、セル外では3Gなどへハンドオーバーする。LTEが全面的にカバーされる第3段階になると、VoLTEが全面的に利用される。この場合、3Gネットワークとはハンドオーバーしないため、もはやLTE携帯電話機には3Gモデムは不要になる。
図2 エリクソン・ジャパンCTOの藤岡雅宣氏
このようなVoLTE導入ストーリーは次のような動きにサポートされている;(1)いくつかの事業者が2012年の導入開始、(2)端末業界が相互運用性(Interoperability)のテストを推進、(3)ネットワークベンダーがVoLET機器製品を開発、(4)LTEのカバレージが拡大。
VoLTEは、IP電話になるため音質の低下が懸念されるが、実はこれまでよりも向上する。音声周波数帯域が従来3Gの300Hz〜3kHzから100Hz〜7kHzへと広がるためだ。またフィールド試験や実験室での試験では、音声通信の呼び出しまでの時間は3Gだと6秒程度かかるが、VoLTEでは送受信機がアイドル状態であっても3秒以下に短縮されたとしている。
韓国では、SKテレコムがVoLTEサービスを8月8日から開始した。まずサムスンのGalaxy S IIIのLTE版に同サービスを利用できるアプリを梱包する。VoLTEは、LINEやSkypeなどのサービス業者に通信業者が対抗するための手段でもある。このため、国内でもVoIPサービスとの差別化を図るため、電話番号として050ではなく、従来の携帯電話番号の080あるいは090を使う方向だ、と藤岡氏は語る。