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「心の琴線に触れる体験を半導体がドライブする」Nicky Lu氏が見る3DIC時代

ファブレスメモリー企業の台湾イートロン(Etron)社の会長兼CEOのニッキー・ルー(Nicky Lu)氏は1970年代から2020年代までの10年単位の時代を定義し、それに合うメモリシステムを2012 GSA/SEMATECH Memory+ Conferenceにおいて提案した。異種チップの集積化の時代に備えたイノベーションこそ、3次元ICの時代になると見る。

図1 イートロンの会長兼CEOであるNicky Lu氏

図1 イートロンの会長兼CEOであるNicky Lu氏


「半導体産業にとって、1970年代は回路技術の時代、80年代は製造と自動化の時代、90年代はVLSI設計の時代、そして2000年代はさまざまな応用が出現した時代だった。2010年代は人生を有意義に過ごすHMI(ヒューマン-マシン・インターフェース)インテグレーションの時代、2020年代は心に響くシステムを生活や身体、社会に融合させる時代となろう」。ルー氏(図1)はこう語った。心に響く体験こそ、サービスを加速し、そのサービスが製品を決定する、として、2020年代の社会は、心に訴える製品がヒットするだろうと見る。

こういった時代では、スマートフォンやタブレット、スマートテレビなどの心に響くデバイスと、フェイスブックやグーグルなどの心に響くサービスをインターネットのクラウドがつなぎ、その中核に半導体がくる。半導体メーカーはデバイスにもサービスにも技術を提供するという役割を担う(図2)。半導体メーカーがユーザーに対してソリューションを提案するソリューションプロバイダになりつつあるという世界の半導体ビジネスの動向はまさに、ルー氏の認識を反映しているように見える。


図2 心に響く製品とサービスを半導体が実現する 出典:Etron

図2 心に響く製品とサービスを半導体が実現する 出典:Etron


こういったソリューションビジネスに不可欠な技術がマルチ次元のICである。ICチップを重ねるスタック構造だけではなく、全く異なるRFやMEMSなどのチップを同一基板上に載せる構造も含め、ルー氏はm-D(マルチ次元)ICと呼んだ。最近は2.5次元、3次元という言い方をするが、ここに新しいシリコンフォトニクスやソーラーと電池機能、LED、3D IC、バイオチップなどを集積したものは3次元を超えた次元になっていると考えている(図3)。


図3 マルチ次元のICとして3D ICを定義する 出典:Etron

図3 マルチ次元のICとして3D ICを定義する 出典:Etron


バイオチップは、例えばGATTACAというDNA配列と、その逆さまになったDNA配列をそれぞれ0と1に当てはめるとデジタル回路ができる。0と1のスイッチング作用を行うのが酵素となる。

スタンフォード大学の学長であり、RISCアーキテクチャの考案者であるJohn Hennessy教授は、半導体ICの消費電力はそれぞれ1/3ずつCPU、メモリ、パッケージングだと述べたことをルー氏は引用した。ルー氏は、広いI/Oのさまざまなチップには標準品がないため、パッケージング技術が重要な要素になると見ている。

半導体メーカーはデザイナーになり、さらに心に響くアーキテクトとなっていく。今後はIC技術をベースにしたIDA(Integrated Design & Architect)産業へと進化していくと見る。2020年までの近未来はISSCC(Integrated System Software Circuits Chips)となり、20年代はヘテロジニアスなインテグレーションのm-D時代になるとする。ISSCCは言うまでもなく、国際半導体回路学会(International Solid-State Circuits Conference)をもじったルー氏独特の洒落である。


図4 水平分業企業を集めP/Lまで共有する新ビジネスモデル 出典:Etron

図4 水平分業企業を集めP/Lまで共有する新ビジネスモデル 出典:Etron


さまざまな異種のチップや技術を集積した半導体デバイスは、システムアーキテクチャからソフトウエア、回路、シリコンチップ、設計、IPやEDAなどさまざまな知識が必要となる。何でもわかるレオナルド・ダビンチのような人はいない。となると、チップデザイナー、デザインハウス、ファウンドリ、IP/EDAベンダー、システムアーキテクト、パッケージハウスなどそれぞれの専門企業とコラボレーションして手を組むしかない。専門企業と手を組むことで、仮想垂直統合集団CVVI(Clustered Virtual Vertical Integration)が出来上がる。CVVIでは各社が共同でチップを開発し、心に響く体験を共有し、知識を統合し、P/L(利益/損失)も共有する。一人だけ大儲けはしないが、リスクは少なくみんなで利益を共有できるような仮想的な垂直統合組織となる。

では、どのような製品を開発すべきか。イートロンはユーザエクスペリエンスにあった製品戦略を考えている。3次元実装のアナロジーから、人間の頭脳はバッファメモリとKGD(Known Good Die)、目はウェブカメラ、神経はUSB3.0ホストのバスやリンクとなる配線、親指はUSB3.0フラッシュコントローラでいろいろな記憶(経験)にタッチする機能と考えている。このために必要な半導体チップを今後、設計していければよいことがわかる。

イートロンはコラボレーションに誰もが参加できるようにオープンであり、将来のヘテロインテグレーション技術をみんなで実現しよう、と締めくくった。

(2012/06/05)
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