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フリースケールが家庭の電力を管理するHEMS開発ボードを提案

フリースケールが家庭用の電力マネジメントシステム、いわゆるHEMS(ホームエネルギー管理システム)に力を入れていることが明らかになった。9月中旬、東京港区で行われたFreescale Technology Forum(FTF)Japan 2011において、同社はOSベンダーなどのエコシステムを通してHEMSの展望について語りデモも見せた。

図1 フリースケールのグレン・バーチャーズ氏

図1 フリースケールのグレン・バーチャーズ氏


米フリースケール社(Freescale Semiconductor)は、スマートグリッドやスマートメーター市場はこれから始まり、将来の大きな可能性をHEMS市場が持っていると考えている。スマートグリッドが担うべきデマンドレスポンス(電力需給)は電力網の需要に応じて利用者が電力を増減する仕組みである。例えば、電力不足の時は利用者が節電したり、余剰電力を譲ってもらったりする。米国におけるこのデマンドレスポンスは今、大企業や公共事業体など大手事業者が中心になって取り組み、ピーク電力を下げるようにしているが、産業界から家庭までみんなが取り組むようになると、もっと大幅に下げられる可能性がある。

特に家庭が取り組むことの効果が大きい。同社コンスーマ&インダストリアル・セグメント マーケティング・ディレクタのグレン・バーチャーズ氏(図1)は、「企業が対応するデマンドレスポンスは半分以上あるもののその効率はもはや目いっぱいになっている。だからこれをカバーするのが家庭になる。2019年には住宅での対応が全体のデマンドレスポンスに大きな影響を与えることになる」と述べた。


図2 フリースケールが提案するスマートハウスの概念 出典:Freescale Semiconductor

図2 フリースケールが提案するスマートハウスの概念 出典:Freescale Semiconductor


だからフリースケールは、家庭におけるデマンドレスポンスを制御するHEMS市場に参入するのである。HEMSの基本的な機能は、見えない電力を見える化することである。フリースケールが紹介したHEMS像には、家庭そのものが一つのマイクログリッドのようになっている (図2)。ここでは、省エネ電化製品、ソーラー発電機、スマートメーター(電力量を測定、スマートグリッドへ送信)、スマートプラグ(家庭内プラグごとに電力を測定)、電気自動車、スマートフォン、Wi-Fiルータ、HEMS装置などを家庭内で想定している。HEMSハブは使用電力を管理する装置である。スマートフォンは、使われている電力がどの程度なのかを把握し、電化製品を制御する。屋外から帰宅する少し前にエアコンをオンしておくこともできる。バーチャーズ氏は「スマホが家庭内電力管理のカギとなるだろう」と予想する。

半導体メーカーであるフリースケールは、ARM9プロセッサコアを集積したアプリケーションプロセッサi.MX28を利用したHEMSボードを試作している(図3)。ここで提案するのは、ディスプレイの付いた室内温度を設定するサーモスタットや、ZigBeeやWi-Fiなどで家庭内電力を管理するHEMS装置(ディスプレイなし)、ディスプレイの付いたホームセキュリティパネルなどである。


図3 フリースケールのi.MX28アプリケーションプロセッサを用いた家庭内電力の見える化システムHEMS 出典:Freescale Semiconductor

図3 フリースケールのi.MX28アプリケーションプロセッサを用いた家庭内電力の見える化システムHEMS 出典:Freescale Semiconductor

フリースケールはこのHEMSボードをHEG(ホームエネルギーゲートウェイ)と呼んでいるが、これは家庭内の電化製品を使う電力ネットと外部のスマートグリッドをつなぐインターフェースとして働き、スマートグリッドに家の使用電力量を伝える役割も果たす。スマートメーターからの電力情報や家電製品の電力情報などはZigBeeネットワークで取り込み、その電力をHEGに設けたディスプレイで見ることができる。またHEGからWi-Fiで電力情報をスマホやタブレットに送り確認することができる。

i.MX28には、コントローラ機能に加え、パワーマネジメント回路やセキュリティ回路なども集積、Ethernet端子やUSB、UART、JTAG、LCD、DDR2メモリーインターフェース、NANDフラッシュインターフェースなども設けている。さまざまなインターフェースやパワーマネジメント回路、通信回路まで集積したのは、ボード上の部品コストを少しでも安くするためである。対応するOSはLinuxとマイクロソフトのWindows Embedded Compact 7、さらにはQNXのリアルタイムOSがある。デモではリモートで電力状況を見るタブレットとしてアップルのiPadを用い、そのブラウザにはSafariを使った。

こういったHEGあるいはHEMSを使うことで、将来、電力料金が需給状況によって変わる「時間帯価格」を上手に利用することもできる。例えば電力料金の最も安い時間帯に作動するように洗濯機の動作時間を設定する。あるいは電力不足の事態になると、作動時間を遅らせて供給能力が十分ある時に洗濯機を動かす、ということができるようになる。フリースケールは米国の新しいデザインサービスベンチャーのAricent社とパートナーシップを組みこのボード作製を依頼した。

FTF Japan2011では、HEMSボード向けにソフトウエアを開発した日新システムズや、リアルタイムOSを提供したQNXも開発ボードを展示した。

(2011/09/22)

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