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インホイールモータEVは日産リーフと同じ電池容量で1.6倍の航続距離を達成

電気自動車(EV)の車輪ごとにモータを取り付け、そのモータで駆動する「インホイールモータ方式」がEVの泣き所であった航続距離を長くできることを、クルマを試作したシムドライブ社が実証した。同社は慶應義塾大学教授の清水浩氏がこの方式のEVの早期実現のために、ベネッセホールディングス会長の福武總一郎氏らと共に設立した研究開発会社。

図1 シムドライブが開発したSIM-LEI は24.9kWhの電池で333kmの航続距離を達成

図1 シムドライブが開発したSIM-LEI は24.9kWhの電池で333kmの航続距離を達成


電気自動車(EV)は電池容量を大きくすれば航続距離が長くなるが、その分、大きな体積を占めてしまい居住空間が狭くなる。今回開発したSIM-LEI(図1)は、トヨタのレクサス並みの居住空間を持ち、航続距離は333kmと日産自動車のリーフ(Leaf)の200kmより1.6倍以上も長い(表1)。Tesla社のRoadstarと比べると1.8倍長く、三菱のiMiEVと比べると1.3倍も長い。SIM-LEIは全長4790mm、全幅1600mm、全高1550mmの4人乗りの乗用車で、トランクルームにはゴルフバックが4つ入るほどのスペースがある。

SIM-LEIはモータで車輪を直接駆動することによって、トランスミッション系の機械的なロスがなくなるため、エネルギー効率が高く、航続距離がこれまでの電気自動車よりも長いという。モータのトルクはガソリンエンジンのトルクよりも大きいため、加速性能も良く、0→100km/時は計算値だが4.8秒だという。最高速度は150km/時。ガソリン車の燃費換算ではリッター当り70kmと抜群である。

表1 これまでの電気自動車との比較 *1)JC08モード走行、*2) LA4モード走行、*3) 10.15モード走行、*4) 公表されている航続距離および電池容量から算出した値、*5) SMI-LEIは他のEVよりどの程度、航続距離が長いかを示している 出典:シムドライブ

表1 これまでの電気自動車との比較


SiCデバイス実現に大いに期待
シムドライブの代表取締役社長の清水浩氏は、「開発という視点からも改良すべき点はまだ多い。特に大きな体積を占めるインバータ部分を小さくしたい」と述べる。インバータで最も大きな体積を占める部分は水冷装置である。現在使っているシリコンの「IGBTをSiCデバイスに替えると、水冷しなくてもすみ250℃程度でも使えるようになる」として、清水社長はSiCデバイスを早く欲しいと要望している。

実用的なSiC FETでは、MOSFETよりもJFETの方が量産化は早そうだ。ロームやデンソーなどからSiC MOSFETの開発発表はあるが、これまでのところ量産化にはまだほど遠く、表面を流れる電流が十分ではない。これに対してインフィニオンが発表しているSiC JFETはバルクを電流が流れるため、表面準位の影響を受けることがなく十分な電流を採れるという強みがある。しかし、通常はノーマリオン型になってしまうため回路を工夫してpチャンネルMOSFETと組み合わせたカスコードライト接続によってノーマリオフを実現している(参考資料1)。

ドイツのインフィニオンテクノロジーズ社は6月15~17日、東京ビッグサイトで開かれた「スマートグリッド展2011/次世代自動車産業展2011」においてSiCのJFETとショットキダイオードを展示しており、それを使ったハーフブリッジのモジュールも展示している。ここでは耐圧1200V、電流30A、オン抵抗100mΩというJFETモジュールの仕様である。このSiC JFETを使って20kWのインバータを組み、効率97%で体積は10cm×10cm×10cm以内(885cm3)に収まり、重量1.7kgを実現している。ただし、商業的に入手可能になるのは2011年12月の予定だとしている。インフィニオンはまだシムドライブに納入した実績はない。

シムドライブは、自動車メーカー、部品メーカー、モータメーカー、材料メーカー、商社、販売会社など32社と二つの自治体が研究開発費として一口単位で資金提供する研究開発のための会社であり、年度ごとに参加者からの会費で全ての費用を賄っている。単年度に1台試作車を作り、各社に技術を移転するという仕組みのサポート・コンサルティングも行う。この会社で作るクルマにはインホイールモータ、バッテリ搭載部、インバータ部などクルマの基本的な構成を共通プラットフォームとし、この上にクルマ特有の機能やボディの形を自動車メーカーなどの参加企業が作り込んでいく。今回の第1号車は2010年1月19日から2011年3月31日までの間に作り込んだクルマとなった。

清水社長が起業したのは、電気自動車の開発を30年もやってきてインホイールモータ方式のEVを早期に実用化したいという強い思いがあり、大学教授という立場では難しいと判断したため。ベネッセの福武總一郎氏やナノオプトニクス・エネジーの藤原洋社長、ガリバーインターナショナルの羽鳥兼市会長などからの出資を元に2009年8月に起業した。今後はさらに2号車、3号車を開発していく。

参考資料
1. SiC Switching device by Infineon"Cascode-Light": SiC JFET and Low power MOSFET、SPIフォーラム「パワーエレクトロニクスの全貌と半導体の未来――電気自動車、環境、再生可能エネルギーのカギを握る」、主催セミコンポータル
http://www.semiconportal.com/spiforum/1009/

(2011/06/17)

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