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英国特集2011・性能を下げずに低消費電力を追求する携帯用パワーアンプ

プロセッサコアの代表的IPベンダーであるARM社をはじめとする英国企業は、携帯機器向けに低消費電力をこれまでずっと追求してきた。IPコアやワイヤレスチップの低消費電力化は進んできたが、携帯電話用送信機のパワーアンプの低電圧化も進んでいる。携帯電話のインフラや電話機に使うパワーアンプの低消費電力化をレポートする。

図1 パワーアンプにおける振幅と同じような振幅の包絡線を電源電圧として用いる

図1 パワーアンプにおける振幅と同じような振幅の包絡線を電源電圧として用いる


携帯機器の中でも非常に高い電力を消費する回路の一つが送信機のパワーアンプである。データをアップロードするのには送信機の無線パワーがかなり必要になるため、この送信機のパワーアンプの消費電力を下げることは焦眉の急となっている。特に携帯電話機の中に多くのパワーアンプを搭載するようになってきたためその効率を上げ消費電力を減らす技術が重要になった。携帯電話の基地局のパワーアンプは送信出力が大きいため消費電力も大きい。この消費電力を下げる技術を英ベンチャー企業のニュジラ(Nujira)社が開発、それを標準化しようと、OpenET Allianceを設立した。

ニュジラが開発した低消費電力のパワーアンプは、印加する電源電圧を信号振幅と連動しながら、変えていくというもの(図1の左)。従来のパワーアンプは信号振幅が小さな時でも常に一定の高い電圧を加えていた(図1の右)。

従来方式では、信号のピークは電源電圧そのものであり、信号が電源電圧を超えると歪んでしまう。歪ませないためには十分な(ダイナミックレンジの広い)電源電圧を用意する必要があった。その代償として消費電力は高いままになっていた。図1右の茶色い部分がそのまま損失、すなわち熱となり無駄な電力として使われていた。

ニュジラのアンプ方式は、図1左のように信号振幅に沿って電源電圧を変えていくため、無駄な熱となる茶色い部分は極めて小さくなり、消費電力を減らすことができる。同社のパワーアンプのカギとなる技術は、どのようにして電源電圧を信号振幅の包絡線に沿って変調するか、ということに尽きる。ニュジラは、Envelop-tracking signal(包絡線追跡信号)を生成するため、ベースバンド回路からの出力データをデジタル化し振幅を計算するアルゴリズムを考案した。この計算結果を、LVDSインターフェースを通して電源電圧を供給するパワーモジュレータに送り、電源電圧を変調する(図2)。


図2 信号振幅に沿った包絡線を生成する

図2 信号振幅に沿った包絡線を生成する


HSPAやLTEなどのデジタル変調方式の携帯電話システムにおいてはベースバンドからの出力はIとQデータであるが、ニュジラの技術は、デジタルのIとQからアナログ包絡線波形を生成する。この包絡線を作り出すアルゴリズムがパワーアンプメーカーごとに違っていればさまざまな信号波形の包絡線が出来てしまう。送信機のパワーアンプに加える電源電圧の波形が信号振幅の波形と違ってくれば、もはや全く使えないことになる。そこで、同社はこのアルゴリズムに沿って包絡線追跡パワーアンプの評価ボードと開発キットも作り、顧客サポートにも力を入れている。


図3 NujiraのVPセールス&マーケティングのJeremy Hendy氏(左)とOpenET Allinance会長のSteven Baker氏(右)

図3 NujiraのVPセールス&マーケティングのJeremy Hendy氏(左)とOpenET Allinance会長のSteven Baker氏(右)


この包絡線を作り出すアルゴリズムを標準化するのがOpenET Allianceである。Mobile World Congress2011で、その結成を発表している。この標準化案では、信号波形だけではなく制御信号も標準化する。OpenET Allianceの会長であるSteven Baker氏は、「このアライアンスは独立系のNPO法人であり、携帯機器や携帯電話のインフラに使う送信機内のパワーアンプの消費電力を下げることが主目的だ。例えばiPhone4にはGSMやWCDMAなどをカバーするためにパワーアンプが5個も入っている。一つのパワーアンプが帯域20MHzをカバーするためだ。これらを一つにまとめると消費電力が下がり電池が長持ちする」と述べている。

OpenET Allianceの提案するアルゴリズムに沿って標準化してしまえば、電力効率の高いパワーアンプを設計でき、インフラ系ならCO2を削減し、携帯電話なら電池を長持ちさせることができる。同氏は今年末までに30〜50社の会員を集めたいと意気込んでいる。

(2011/04/06)

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