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川崎重工のギガセル、電車走行停止の充放電試験から次世代グリッドに期待

送電網(パワーグリッド)では、発電された電力を、消費を渇望する地域へ送り、ネットワークにおける電力を平準化する訳だが、消費する電力よりも発電する電力の方が大きければ余った電力を捨てざるを得ない。捨てないためには蓄電池が要る。蓄電池で電力の平準化を達成、電力損失を半減させた例を川崎重工がSPIフォーラム「次世代パワーグリッド構想」の中で発表した。

川崎重工の堤香津雄理事

川崎重工の堤香津雄理事


川崎重工業は、ニッケル水素バッテリーセルを直並列に数百個並べGW(ギガワット)級の出力まで高めたバッテリー、「ギガセル」を開発してきた。例えば電圧60kW、電流2000Ah、最高出力6.5GWというバッテリーもある。そのギガセルを電車の走行に利用した。これは電車の試験線路内に蓄電設備を設置し、き電線(パンタグラフと接触する架線と平行に電力供給する電線)からの電力の出し入れをこの蓄電設備で行う。制御システムを用いない直結システムになっている。走行する時は蓄電池から電力を放出し、止まるときは回生ブレーキにより蓄電する。

き電線と直結するこのシステムを使うメリットには、制御装置を導入しなくて済む、制御装置を介するロスがないため充放電効率が高い、回生エネルギーの遅れによる損失もない、ノイズの発生も少ない、などがある。変電所からのき電線を通じてバッテリーに充放電した時のき電線にかかる電圧と電流はほぼ直線的で、基準電圧の760Vを中心に放電する時は電流を大量に流すため電圧が下がり、回生ブレーキをかけて充電する時は電圧が上がる。


変電所の電流-電圧特性 出典:川崎重工業

変電所の電流-電圧特性 出典:川崎重工業


バッテリーを置かない場合を第三軌条として、架線を使わない状況で電圧を24時間測定すると電圧が高い時と低い時で120Vの差があったという。これに対して、バッテリーを用いた場合には、この電圧差が60Vに減少した。下の図では6:00amから11:00amまでのデータしかないが、24時間ではこれだけの差があったという。この電圧差と電流値から送電損失を求めることができるが、バッテリーを用いない場合は15%だったが、バッテリーを用いると7%しかなく半減した。バッテリー導入の効果は消費電力(CO2)削減に威力を発揮することがわかる。これは米国において10両編成の車両を終日運転させた結果のデータである。


米国で終日運転させたときの電圧 出典:川崎重工業

米国で終日運転させたときの電圧 出典:川崎重工業


ニッケル水素電池を開発したのは、水素イオンは拡散速度が最も大きくパワー密度が高いためだと、講師を務めた同社車両カンパニー理事の堤香津雄氏は述べている。水素イオンはリチウムイオンやナトリウムイオンと比べてイオン半径が極端に小さいために拡散速度が大きい。同氏は、一般的にリチウムイオン電池は体積エネルギー密度、重量エネルギー密度とも優れていると言われているが、これは間違っていると語る。単位重量当たりのエネルギー密度は水素が50kWh/kg、リチウムは16kWh/kgであり、出力密度は水素が25kW/kgであるのに対して、リチウムはわずか2kW/kgだとしている。これらの値はギブスの自由エネルギーから求められる元素固有の値であり、本来の能力を表している。例えば鉛とリチウムを比べると、鉛の方が圧倒的に重い。このため体積エネルギー密度は鉛が有利で、重量エネルギー密度はリチウムが有利なはずだという。

ニッケル水素電池はもはやメモリー効果もない。継ぎ足し継ぎ足しで電池を充電するからメモリー効果が起きるのではない。むしろ160%まで過充電するから起きるのであり、それを防ぐことでメモリー効果は起きなくなったとしている。「例えばトヨタのプリウスをはじめとするハイブリッドカーはすべてニッケル水素電池が使われているが、常に継ぎ足し出し入れしているのにもかかわらず、メモリー効果が起きたという例は聞いたことがない」として、ニッケル水素電池の弱点はかなり改善され、フローティング充電ができるようになり、自然放電の問題も今は存在しないという。

同氏によると、電池は自然エネルギーを電気に変換するものであり、電力を貯蔵するものではないとしている。だから蓄電池、燃料電池、太陽電池がある。電力を貯蔵するのはコンデンサであり、超電導コイルである。畜電池は酸化・還元反応を利用するデバイスだという。

ギガセルは耐久性が高く、充電パターンで200万サイクル試験を継続中だという。同社は架線を使わずバッテリーだけで動くSWIMOという愛称の電車を開発、札幌市での実験を終えた。米国など海外にも輸出されている。

(2010/06/01)

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