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TSMCの売り上げ構成にみるデータセンター市場のトレンド

TSMCが2024年第2四半期(4月〜6月期)の売上額が史上最高の208.2億ドルに達したと7月18日に発表した。粗利益率は53.2%、営業利益率は42.5%と絶好調である。売上額は前年同期比32.8%増、前期比10.3%増となった。にもかかわらず半導体株は全体的に下がったと日本経済新聞は伝えた。ソフトバンクは英国バースに本社を構えるGraphcoreを買収した。Open AIがBroadcomらと協議を始めたという報道もある。

TSMCの業績は、やはりデータセンター需要にけん引されており、スマートフォンの落ち込みを補った格好となった。先端の3nmプロセスノードは、2023年第4四半期に全売上額の15%も占めていたが、2024年第1四半期には9%に落ちたものの、今期第2四半期には再び15%へと上がっていることからも推察できる。スマホ需要、特に2023年第4四半期はiPhone向けプロセッサで急増したもののスマホでは強い需要は第1、第2四半期とも生じていない。また、全売り上げの15%と言っても全売上額が24年第2四半期の方が24年第4四半期の196.2億ドルよりも6.1%高い。

一般の季節要因として半導体の売り上げは第4四半期が最も多く、次の第1四半期では5〜10%程度落ち、第2四半期は少しずつ上がっていく。しかし今回のTSMCの売上額はすでに23年第4四半期を超えているため、次の第3四半期、第4四半期への伸びは期待される。

TSMCは次の第3四半期の見通しを口頭で話しており、224億ドル〜232億ドル(1USドル=32.5台湾元)と予想している。今回の第2四半期も前四半期前の予測では196〜204億ドルと予想していたため、今期の売上額も予想よりも上ブレしていた。


2Q24 Revenue by Technology / TSMC

図1 2024年第2四半期におけるTSMCの売り上げ構成


TSMCの売り上げ構成の中で最も売り上げの大きなプロセスノードは5nm、次が7nm、そして3nmとなっている(図1)。つまり、これまでは先端ノードで稼ぐ構造になっていたが、その勢いは緩んできていると言えそうだ。3nmプロセスは5nmプロセスよりも50%以上値段が高いから、スマホのように小さなスペースに無理やり詰め込む用途以外は、コストが優先されるようになっている。

データセンター向けのチップでは、小さなスペースに埋め込むというよりも電子回路の信号伝搬距離を短くすることで、性能と消費電力を改善している。7nm以下のプロセスでは3次元構造を積極的に駆使して配線距離を短縮している。だから微細プロセスノードが好まれるが、それだけではない。チップをいくつも並列接続できるように、拡張性とネットワーク制御チップが重要な役割を果たす。「微細化は緩んでもコンピューティングパワーへの要求はますます高まっている」(NvidiaのJensen Huang CEO)からだ。

需要が急増しているデータセンター向けのチップとは、ほぼAIアクセラレータ向けのチップを指す。こんな中で、ソフトバンクグループ(SBG)がGraphcoreを買収、完全子会社化した。Graphcoreのチップは、Nvidiaのチップ同様、多数のチップを並列接続できる拡張性を持たせたチップだが、NvidiaやAMD、IntelなどのGPUアーキテクチャで使われてきたSIMD(Single Instruction Multiple Data)ではなく、MIMD(Multiple Instruction Multiple Data)アーキテクチャを使っている点が新しい(参考資料12)。MIMDは複雑すぎてこれまでは使われてこなかったアーキテクチャだが、Graphcoreは命令を3つに絞ることで実用化した。

また、OpenAIが半導体設計においてBroadcomなどの半導体設計企業と話し合いに入っていると、7月20日の日経が報じた。The Informationなどの海外メディアが報じたニュースを伝えたもの。BroadcomはGoogleのTPU(Tensor Processing Unit)AIチップを設計していたファブレス半導体会社。Open AIは、GoogleのTPU開発リーダーを採用したが、設計にどう関わっているのかは不明。OpenAIのAltman CEOは半導体設計会社を設立するか内部で部門を設立するのか、あるいは外部の半導体設計会社に依頼するのか、まだ結論が出ていないようだ。

世界的に半導体産業は活発なのだが、米国政府が中国市場への半導体および半導体製造装置の輸出規制を強めるというニュースが出て以来、米国を中心に半導体株が低下、好調なTSMCやArmの株も若干下がっている。

参考資料
1. 「性能と拡張性の高いMIMDアーキテクチャのAIチップで勝負するGraphcore」、セミコンポータル、(2021/10/12)
2. 「最強のAIプロセッサをウェーハオンウェーハで実現したGraphcore」、セミコンポータル、(2022/03/08)

(2024/07/22)
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