Semiconductor Portal

HOME » セミコンポータルによる分析 » 週間ニュース分析

米政府が半導体とAI、量子技術の対中出資を制限・禁止する法案を推進

夏休みに入った企業が多い中、米国の対中政策がまた一段と厳しくなった。米国では、中国への輸出ではなく中国への出資をきびしく制限する法律が出てきた。8月9日、バイデン大統領は、先端技術、すなわち半導体、AI、量子情報技術を中国で投資することを禁止あるいは制限する法案にサインした。また、TSMCが欧州に設立する工場の概要が明らかになった。

これは、軍事転用が可能な技術として最も重要な半導体への投資を制限する法律であり、これまでの対中国規制よりも一段と踏み込んだものになりそうだ。ワシントンDCにある中国大使館のあるスポークスマンによると、中国には7万社の米国企業があるという。今回の新しい規制は、中国企業、米国企業ともビジネスを悪くさせるだろうと見ている。

AIにせよ、量子情報にせよ、制御や演算の主体となるのは、半導体であることには変わりはない。このため半導体メーカーにとって売り上げ減少は避けられない。それでも、最先端技術が民間利用だけではなく軍事技術にも利用できるようになったために敵対する国々は民間と軍事の壁をむしろ積極的に取り除こうとしている、と米政府はみている(参考資料1)。これらの国々が半導体ICとAI、量子技術を急速に進展させることによって、米国におけるリスクは極めて高くなるという。


図1 NvidiaのAIエンジンともいうべきSoC「A100」 7種類の専用AIエンジンとGPUを集積している 出典:Nvidia

図1 NvidiaのAIエンジンともいうべきSoC「A100」 7種類の専用AIエンジンとGPUを集積している 出典:Nvidia


半導体メーカーの中では、すでにダメージを受けそうなところはNvidiaだろうと米国では見られている。Nvidiaは、前回(2022年10月7日)の規制(参考資料2)の時に、Nidiaは中国へ高性能GPU「A100」を出荷できないため、性能を少し落としたA800を中国へ出荷した。

中国インターネット企業のAlibabaやTencent、ByteDanceなどがAIプロジェクトを加速させるため、NvidiaのGPUを50億ドルも急いで購入しているという噂がある。今年中に10万個のA800を10億ドルで買い求めており(単価1万円)、残りを2024年までに40億ドルで購入する計画だという。NvidiaのGPUが間もなく中国で入手できなくなるためだろうと見るアナリストは多い。インターネット企業は生成AIへのシフトを急速に進めているからだ。

今回バイデン大統領がサインした法案は、45日間のパブリックコメントを経て、議会に提出される。

また、中国の半導体工場にとっては、日米の半導体製造装置がなくては製造することが難しい。中国への輸出する製造装置は、例えば東京エレクトロンの2024年度第1四半期(2023年4月〜6月)決算発表によって明らかになったことだが、中国向けの輸出製品が売り上げ3917億円の約4割(39.3%)に達した。これは台湾(16.3%)と韓国(19.6%)を足した金額よりも多い。ただし、この数字にはフラットパネルディスプレイ用の製造装置分も含まれているため、その分を発表資料から求めてみると、半導体プロセス装置2871億円、ファブソリューション1001億円だから残り44億円がFPD装置向けになる。中国向け全体が1539億円だから、1495億円の半導体製造装置を中国へ売ったことになる。TELの売り上げにとって中国市場は極めて大きい。

Applied Materialsの決算発表はこれからなので、中国売り上げの比率はわからないが、それほど低くはない。30%程度はこれまではあった。バイデン政権による中国への規制は今後も続くため、半導体製造装置の中国輸出が厳しく規制されるようになれば、産業的には大きな痛手となりそうだ。

もう一つ大きなニュースとして、欧州に設立するTSMCの詳細がわかった。欧州に設立するTSMCの法人は100%子会社ではなく、ドイツのBoschとInfineon Technologies、オランダのNXP Semiconductorsとの合弁になる。会社名は、ESMC(European Semiconductor Manufacturing Company)。総投資額は100億ユーロを超えるようになる。TSMCはそのうちの70%を出資し、Bosch、Infineon、NXPがそれぞれ10%を出資する。技術は22/28nmと、FinFET技術による12/16nmプロセスになる。自動車向けの半導体を量産する。24年後半に工場建設に着手し、27年末には稼働を開始する予定となっている。

参考資料
1. "Executive Order on Addressing United States Investments in Certain National Security Technologies and Products in Countries of Concern", The White House press release (2023/08/09)
2. SPIフォーラム「米中貿易の行方と半導体産業への影響」、セミコンポータル (2023/06/02)

(2023/08/14)
ご意見・ご感想