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フォトレジストのJSR、国営ファンドが買収へ

週末の土曜日、産業革新投資機構(JIC)がフォトレジスト大手のJSRを買収するというニュースが流れた。実現すれば民間企業から国策会社に変わる。また、半導体をはじめとする工学系への女性参加を後押しする試みが続出している。4年制大学で工学部に進む女性の割合は山形大学の20.2%が最高で、県内の中学・高校で出張講義や進路相談を行っている。

JSR採用ページ

図1 JSRのホームページから


6月24日、政府系ファンドのJICがレジスト大手のJSRを1兆円で買収する、というニュースを日本経済新聞が流した。日経は、「政府は半導体を戦略物資と定め、国内で先端品の量産に巨額の支援を始めた。国際競争力が強い素材分野でも成長投資を継続できる環境を整え、素材から製品までの半導体サプライチェーン(供給網)を強くする」と報じたが、翌日曜日には「JSRは24日、JICによる買収について、『検討していることは事実だが、決定している事実はない』と発表した。26日に開く取締役会に付議する予定」と報じた。

どうやら、政府ないしJSRがリークした模様で、本日の取締役会の決議で正式に決まる可能性が高い。日経は既成事実のように、24日、25日とも報じているからだ。24日の日経報道では、グローバルマーケットモニター社による市場シェアの図を載せていたが、それによると、フォトレジストのシェア1位が28%のJSR、2位東京応化工業の21%、3位DuPontの15%、4位信越化学工業13%、5位富士フィルム10%となっている。フォトレジストの市場規模は、市場調査会社の富士経済によると、2020年には16.3億ドル、26年24.9億ドルに成長し、1.5倍に膨らむとする。逆に言えば国別のシェアこそ、日本企業が高いが、市場規模は小さい。

政府系ファンドが支配する「国策会社」となれば、資金は豊富に使えるかもしれないが、競争力ではどうだろうか。これまでは、官僚的な国策会社を民営化してきた。その理由は、民間企業との競争力をつけるためだ。鉄道や電話、電力などで民間会社になってからそれまでになかった様々なサービスを生み出し、提供してきた。官製の国策会社では提供されるサービスは少なかったが、国に守られてきた。

半導体やITのような競争の激しい産業では、のんびり開発は許されない。良いものをいかに早く開発するかが最優先事項である。フォトレジストもそのような性格の産業である。この先、先端的なEUVリソグラフィでも、ダブルパターニングが主流になりつつあり(参考資料1)、また高NAの反射系光学システム、さらには現在の13.5nmに代わる短波長6.5nmを出すドロプレットの採用、波長を変えられる自由電子レーザーを使った新光源など新しいEUV技術が控えている。だからこそ、投資費用がかかることは事実だ。

しかし、オランダのASMLがEUV装置を開発するうえで、潜在ユーザーとなるTSMCやSamsung、Intelからも開発費を集めたように、資金調達能力の高い経営者が求められる。さもなければ世界との競争に勝ちえない。JSRが国策会社を選ぶとしてもスピード感を失わないでいただきたい。

また、半導体が成長産業であることを理解されるようになってきたことは喜ばしいが、人材開発が急務だ。もはや人材は日本人の男性だけで選んでいては成長に間に合わない。女性や外国人など多種多様な人材が欠かせない。そんな折、24日の土曜日の日経には、女性の理工系人材の育成と活用に関する記事が掲載された。「経済協力開発機構(OECD)の2019年時点の調査によると、高等教育におけるSTEM(科学・技術・工学・数学)分野の卒業生のうち女性比率が日本は17%、と比較可能な加盟国で最下位だった。OECD平均は32%」と報じられた。

また、4年制大学の工学系学部に進んだ人の女性の比率が最も高いのは山形大学の20.2%が最高だった。2割を超えた唯一の大学だ。山形大では女性教員や大学院生を組織し、県内の中学・高校で出前講義や進路相談を実施しているという。研究者への道が女性にも開かれていることを初めて知った生徒がいて、今後の選択肢に入りそうだ。

東京工業大学が24年度の入学者の入試で4つの学院(物質理工学院、情報理工学院、生命理工学院、環境・社会理工学院)で新選抜による58名の女性枠を導入、25年4月入学では学校推薦型選抜を実施する。それでも学士課程学年の募集人員1028人の14%にすぎないという。半導体企業が集積する熊本県では、熊本大学が学部相当の「情報融合学環」を24年春に創設し、学校推薦選抜15名の内8名を女子枠とする。名古屋大学でも工学部の入試に女子枠を導入している。

参考資料
1. 「Applied、EUVの寸法を半減させるパターンシェイピング装置を開発」、セミコンポータル (2023/04/25)

(2023/06/26)
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