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米国製に続き、日本製半導体も第三国経由でロシアに流入

米国製だけではなく日本製の半導体もロシアに流れていることを日本経済新聞が明らかにした。また、韓国Samsungの元常務が半導体工場図面情報を中国に流出させたとして韓国内で逮捕された。半導体が民間企業向けだけではなく国防上にも有力な手段であることを、ロシアや中国も認識するようになった。

半導体チップ、特にCPUコアを集積したSoC(システムLSI)は、敵のミサイルの位置をリアルタイムで追尾し計算する速度が速いため、迎撃ミサイルや高精度のミサイルに搭載されている。米国は世界に先駆けて半導体チップを国防に使ってきた。最近出版されたChris Miller氏の著書「Chip War」によると、そのきっかけになった最大の事件はベトナム戦争での敗北であった。ミサイルがほとんど命中しなかったのだ。そこで国防総省(DoD)はVHSIC(Very High Speed Integrated Circuit)計画を立て、最高速のSoC開発に力を注いだというのである。最近、DoDは微細化ではなく、チップレットを活用する2.5D/3D-ICにシフトしている。コスト的に有利だからだ。

6月19日の日経によると、インドの調査会社からロシアの通関データを入手して半導体輸入記録を調べた。22年2月24日〜23年3月31日に渡り、1回5万ドル以上の取引を分析したところ、日本メーカー名が記された半導体の取引は少なくとも89件あり、200万個以上を約1100万ドル(約15億円 )が流入していたという。金額の7割が香港を含む中国経由でロシアに渡ったという。財務省の貿易統計は直接の取引を表しているが、日経は22年のロシアへの半導体の直接輸出は約15万個となり前年比85%減少したとしている。しかし、第三国を経由した取引については把握できていない。

香港に拠点を置く商社が22年10月に約4000個のキオクシアの半導体を約17万ドルでロシアの電子部品卸会社に輸出していたと日経は報じている。キオクシアは顧客や販売代理店には各国の輸出規制の順守を求めているとはいうものの、ロシアに流れたことは把握できていないようだ。ただ、筆者の10年間に渡る中国取材やインタビューを経た中国情報では、同国には「裏切り」という言葉はなく、スパイ活動は常態化しているようだ。


Commerce Implements New Export Controls on Advanced Computing and Semiconductor Manufacturing Items to the People’s Republic of China (PRC) / U.S. Department of Commerce

図1 October 7のニュースリリース 出典:米商務省BIS


半導体および半導体製造装置が米中貿易戦争のもとで、中国への輸出規制が強く求められるようになった「October 7」(2022年10月7日の米商務省通達)以降、中国輸出にはかなりの警戒を要する。2023年の4月には米国企業のSeagateでさえ、華為へ輸出したことに対して3億ドルの罰金(和解金と呼ばれている)が課せられた(詳細は、SPIフォーラム「米中貿易の行方と半導体産業への影響」および参考資料1)。

日経は6月14日付けで「韓国検察がサムスン電子の半導体工場の図面資料を不正に入手し中国に流出させたとして同社の元常務(65)らを産業技術保護法違反などの罪で起訴した。検察が12日に公表した起訴状によると、元常務と同社協力会社職員ら計7人は中国陝西省に半導体メモリ工場を建設しようとサムスン半導体工場の図面情報を不正に取得した」と報じた。韓国の情報機関、国家情報院が内偵して19年8月に検察が捜査を開始。元常務が病気療養のために韓国へ帰国した後の23年5月に逮捕した、と伝えた。Samsung、SK Hynixを経て中国に渡り半導体設計会社を起業、元同僚たちを2倍の給料で雇い入れ、中国内でメモリを試作していたという。

米国企業は、西側諸国にサプライチェーンを充実させる動きがみられる。Texas Instruments社は最大146億リンギ(約4400億円)を投資してマレーシアに半導体の後工程の工場を増設する。首都のクアラルンプールとマラッカの2か所で既存の後工程工場に隣接する。Intelはポーランドに46億ドルを投資して後工程の工場を建設する。Intelのアイルランドとドイツのプロセス工場からのウェーハを受け取りチップに組み立てる。IntelはイスラエルのTower Semiconductorを買収したが、さらにイスラエルに250億ドルを投資して半導体工場を建設する、とネタニヤフ首相が語った、と19日の日経が報じた。

参考資料
1. 「中国向け半導体と製造装置・材料の規制の実態〜SPIフォーラムにみる」、セミコンポータル (2023/06/07)

(2023/06/19)
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