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中国向け半導体と製造装置・材料の規制の実態〜SPIフォーラムにみる

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SPIフォーラム「米中貿易の行方と半導体産業への影響」が6月2日、オンラインで開催された。米国が今、なぜ対中貿易に対して厳しい態度で挑むようになってきたか、日本在住で企業弁護士として活躍しているWhite &CaseのWilliam Moran氏は、「October seven(10月7日)」に発行された新しい貿易管理規則(図1)に関してその詳細を語った。続いて、日本の製造装置業界に関して三菱UFJモルガン・スタンレー証券の和田木哲哉氏、桜美林大学の山田周平氏が日本と中国の見方について語った。

Commerce Implements New Export Controls on Advanced Computing and Semiconductor Manufacturing Items to the People’s Republic of China (PRC) / U.S. Department of Commerce

図1 米国で発行された中国への輸出規制「October 7」 出典:U.S. Department of Commerce


Moran氏の話は、外国向けの製品に対する規制であるFDPR(外国直接製品規制)から始まった。この規制は、1959年にその概念ができたが、長い間適用されてこなかった。ところが、2013年ころから適用されるようになり、2020年~21年には華為(ファーウェイ)ルールと呼ばれるエンティティリストのFDPRが適用された。2022年にはロシア/ベラルーシにFDPR、さらに2022年の10月7日には先端コンピュータ、スーパーコンピュータにFDPRが適用され、2023年にはイランへFDPRが適用された。

Moran氏(図2)は、外国向け製品のたとえとしてアップルパイを取り上げた。アップルパイを焼いて食する場合、第三国のリンゴを焼くことはOKだが、第三国で米国製のオーブンで焼いたり、米国が使っている作り方を使ったりするのなら、規制対象となる、と説明する。

White &Case William Moran氏

図2 米国の企業弁護士William Moran氏 出典:SPIフォーラムでのオンライン講演から

 
特に、近年の米国は国家安全保障に再び力を注いでおり、国家情報長官室では、安全保障上最も深刻な脅威に関する見解を毎年発表しているが、今年は、中国、ロシア、イラン、北朝鮮にフォーカスする、と発表した。特にこれまで対象とされていなかった中国をトップの位置に持ってきたことが新しい。

米国商務省の態度はこれまでのFDPR規則とはかなり違うようだ。衝撃的な事例として、2023年4月19日、米国企業であるSeagateが米国商務省BIS(Bureau of Industry and Security)と和解という形をとりながらも3億ドルを支払うことになった事件だ(参考資料1)。Seagate TechnologyとSeagate Singapore International HQは商務省BISの疑惑に対して解消することで合意に達した。その疑惑とは、2021年8月17日と9月29日の間に華為へHDDを販売したことが米国の輸出行政規則に従わなかったというもの。FDPR違反となる。

和解金は3億ドルで、四半期ごとに1500万ドルを5年間にわたって支払うことになる。2023年10月から支払い始める。SeagateのCEOであるDave Mosley氏は「Integrity(忠実性)は当社のコアバリューの一つであり、国際貿易に準拠し法律を守ることを約束する」と述べている。

輸出規制違反は民事と刑事罰につながる可能性がある、とMoran氏は言う。このため、Seagate側としては、和解して解決を急ぐ方が得策と判断したようだ。このことは、米国企業がFDPRに違反すると、米国政府は本気で企業に罰則を与えるぞ、という本気度を示していると言える。

2022年10月7日には、中国での半導体生産を対象とした新しい管理規制を発令した。先端集積回路ICとそれらを含むコンピュータ商品の輸出、そして中国におけるIC製造またはスパコンの最終用途のための品目の輸出に関する最終用途管理、すなわち半導体製造装置や材料が対象となっている。中国内で先端ロジックやNANDフラッシュ、DRAMなどのIC生産工場でICの開発や生産に使われる製造装置や材料の品目、そしてスパコンそのものや部品、その開発や生産も制限されるようになった。

発令後、真っ先に指摘されたのは、NvidiaのGPUであった。Nvidiaは最先端のGPU(A100やH100)は中国向けに禁止となったが、最先端ではない製品「A800」を中国向けに輸出できるようにした。

和田木氏によると、日本製の製造装置は中国向けに完全に止まっている状態だという。また、山田氏は、中国の実力を冷静に分析した。半導体サプライチェーンを5段階指標で評価すると企画・提案力は4くらいとまずまずだが、回路設計は3.5、前工程は2.5程度しかない。回路設計ではファブレスのHiSiliconの実力は高いが2番手がいないため低いスコアだという。前工程では半導体企業がそれぞれバラバラに工場を稼働させており、市場のスピードに対応できていないという。しかも一流の半導体エンジニアを育てるのに10年かかるが、3年くらいで辞める人が多いと話す。

全体として中国ビジネスはリスクが多いことから、de-risking(デリスキング:脱リスク)という言葉で表現されるように、中国からそっと脱出する企業は徐々に増えているようだ。

参考資料

1."Seagate Reaches Resolution with the U.S. Department of Commerce’s Bureau of Industry and Security", Seagate (2023/04/19)

(2023/06/07)

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