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岸田首相と海外半導体7社経営陣との対話は日本への誘致

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5月19日からのG7サミットを前に岸田文雄首相は18日、海外の半導体メーカー7社を首相官邸に集め、日本への投資を呼びかけた。7社とは、台湾TSMC、米Intel、米Micron Technology、韓国Samsung Electronics、米Applied Materials、米IBM、ベルギーimecの首脳陣だ。19日(米国時間18日)にはAMATが23年度第2四半期(2〜4月期)の決算を報告、ルネサスは2023年の成長戦略を発表した。

岸田首相と会った海外メーカーの内、TSMCとMicronはすでに工場や開発センターを設置しており、Samsungは横浜に半導体開発センターを設立することを表明している(参考資料1)。IntelとAMATは販売拠点を日本に持っている。IBMは製造関係のノウハウを売るライセンスビジネスを進めてきており、日本に投資というより売り込みにきている。imecも同様だが、ラピダスという本格的に共同開発する相手が出てきたということで、ラピダスの生産拠点となる「北海道に研究開発拠点を置くことは理にかなっている」、とCEOのLuc Van den Hove氏が19日の日本経済新聞の北海道地方経済版で述べている。

19日の日経は、7社との面会の話を報じており、MicronとIntel、imecとは個別インタビューを掲載している。またAMATに関しても「今後数年で、日本でエンジニアら800人を採用し、人員を現在の1.6倍に引き上げる」というコメントを掲載している。これはラピダスが工場を北海道に作ることを念頭にした発言。


Micron Sanjay Mehrotra CEO 2019年撮影

図1 MicronのCEOであるSanjay Mehrotra氏 2019年の広島工場にて撮影


MicronのCEOであるSanjay Mehrotra氏(図1)は、今後数年に渡り日本に5000億円を投資すると述べた。DRAMを生産している東広島工場に2026年ごろからEUVリソグラフィ装置を導入するという。日本政府の補助金が前提となっている。

Intel CEOのPat Gelsinger氏は「今は具体的な計画はないが議論は続けている。先端パッケージでは日本は長年リーダーであり、世界は日本の強みを生かせる状況になってきている」と述べており、先端パッケージングでの日本の工場は将来ありうる。これまでイビデンや新光電気工業の先端CPUパッケージに使う微細なプリント回路基板がIntelに提供されてきており、Intelは彼らの実力を熟知している。チップレットや2.5D/3D-ICに日本がいち早くシフトすると日本の地位はもっと上がると見ている。

Intelは、日本にも工場のあるTower Semiconductorの買収に関して最後になっている中国側の承認プロセスの完了を待っている、と19日の日経とのインタビューで述べている。このために中国を訪問し当局と話し合ったことを明らかにした。

ただ、首相と会った7社は全てラピダス社の顧客にはなりそうもない企業ばかりだ。ラピダスの潜在的な顧客は、2nmプロセスを使いそうなNvidia、AMD、Qualcomm、Broadcomなどの先端ファブレスである。海外の政治家が他国を訪問するときは必ず企業のトップも連れてゆき、首相や大統領自らトップセールスを行っている。その意味では岸田首相はこれから、潜在顧客と話し合う場が必要となろう。

ルネサスは、2022年度に1.5兆円の史上最高売り上げを計上、今年に入っても第1四半期(1〜3月)で前年同期比3.7%増の3597億円というプラス成長を示した。今後の自動車と産業機器などで必要な応用に対処するソリューションをイメージしており、そのイメージに沿って新戦略を発表した。例えばマイコンやアナログ、ドライバICなどは強いが、パワー半導体が弱いルネサスは、甲府工場の再利用で300mmのIGBTラインに加え、高崎工場にSiC MOSFETの量産ライン2025年に立ち上げると発表した。また、ルネサスは自動車向けにも産業向けにも共通となるソリューションを可能にするような体制を整える。

これまで買収してきたIntersil、IDT、そしてDialogのチームを一緒に束ね、ワン・ルネサスとして、ウィニングコンボと呼ぶソリューション提供や、テクノロジーを総合的に活用していくことを目指す。IGBTやSiCはこれまで抜けていたパワー半導体にすぎず、パワー半導体を駆動するドライバICや、それに指令を出すマイコン、さらにマイコンへ指令を出すセンサとアナログIC、といったシグナルチェーン全体でのソリューションを提供する。パワー半導体以外はすでに揃っているため、パワーがレイトカマーでも十分に勝算はあると見ている。

ワン・ルネサス、という標語は、グローバルな人材同士のチームだけではなく、エンジニアとセールス&マーケティング担当者とのコンボ、これまでのサイロのような個別レベルから一緒にやろうというクロスボーダーのチーム作りを人事部門が促す。そのトップは買収したDialog社のHRトップであったJulie Pope氏だ。ルネサスはもはや日立、三菱、NECの色が全くないグローバル企業に変わった。

参考資料
1. 「Samsungが横浜に半導体の開発拠点を設ける報道が意味するもの」、セミコンポータル (2023/05/15)

(2023/05/22)

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