Semiconductor Portal

» セミコンポータルによる分析 » 週間ニュース分析

Samsungが横浜に半導体の開発拠点を設ける報道が意味するもの

韓国Samsungが横浜に半導体開発拠点を新設すると、5月13日の日本経済新聞が報じた。300億円超を投じ、横浜市内に先端半導体デバイスの試作ラインを整備するという。このところ、Samsungが日本に半導体工場を持つという噂は出てきており、今回の日経報道の真意は何か。Samsungが日本で開発拠点を設けるメリットは何か。

Samsungは横浜市鶴見区にサムスン日本研究所をすでに持っているが、この研究所はスマートフォンの部品調達に備えるための拠点であり、半導体研究所ではない。スマホのプリント回路基板には日本製の基板や部品が多数使われており、それらの先端部品を調達するための役割を持つ。

今回、半導体拠点ということで、目的は何かを考察してみよう。メモリかファウンドリか、という点では少なくともメモリではなかろう。メモリはDRAM、NANDフラッシュともトップメーカーであり、エンジニアの少ない日本でメモリ工場を増やすことは考えにくい。

ではファウンドリか、と言えばこれも実は考えにくい。Samsungのファウンドリは先端プロセスにフォーカスしており、90nm以上のプロセスには全く興味を持っていない。TSMCは2nm、3nmプロセスを開発していながらも、65nm、90nm、120nmなどのアナログやRF、パワーなどのスペシャリティプロセスも持っていることとは対照的だ。しかし、5nm以下の微細なプロセスノードでは、SamsungはTSMCをライバル視している。


建設中のJASM熊本工場"

図1 建設中のJASMの熊本工場 出典:Private communication


一方、ライバルのTSMCはデンソーおよびソニーと共同で熊本に新工場を建設中である(図1)。しかし、プロセスノードは12/16nmと22nm/28nmであり、5nmや3nmとは技術が異なる。TSMCの熊本法人のJASMは自動車向けのチップ生産が目的であるが、Samsungがこれと同じような工場を作る意味がない。

ではSamsungの意図は何か。恐らく2.5D/3DのICを開発する拠点としての役割であろう。TSMCは日本政府の誘致とは関係なく自力でつくばに3D-IC開発センターを設置した。TSMCやSamsung、Intelは、実際のプロセス微細寸法が15nm程度であっても5nmや3nmプロセスと称している。5nmや3nmに相当する性能や消費電力を得るため、3次元の立体的なレイアウトを駆使する。このエリアスケーリング(別名DTCO: Design Technology Co-Optimization)で3次元のFinFET構造やビアホール、コンタクトホールなどの3次元化を進めてきたが、これも2028年くらいまでしか続かない、という見方が出てきている。

IC上に集積するトランジスタ数は、18〜24カ月ごとに倍増するというムーアの法則は、システムコストが下がる限り、実は今後も続く。ではどうやってトランジスタ数を増やしていくか。その解が、2.5D/3D-ICである。TSMCは同じプロセスノードなら、2.5D/3D-ICであれば集積度は6〜10倍上がるというデータを示してきた。

TSMCの背中を追いかけるSamsungが日本に半導体拠点を設けるなら、やはり2.5D/3D-ICの開発になると見ることは自然であろう。3nmの次に2nmが開発されたとしても、その後のGAAの相補形式のロジックとなるCFETやナノシートなどに必要な新材料開発やパッケージングの材料開発は日本が強い。となると日本に研究開発拠点を置き、日本の材料メーカーとコラボレーションすることは理にかなっている。

2.5D/3D-IC開発では、Cuピラーと半田ボールで微細な接続を行う。インターポーザのような再配線層のウェーハやブリッジチップとの接続や、チップ-ウェーハ間、ウェーハ-ウェーハ間などの端子接続ではバラつきの問題や、半田ボールのエレクトロマイグレーションの問題、3D化による放熱の問題など解決すべき問題が多い。特に信頼性上の問題が山積している。日本の材料メーカーとじっくり議論しながら取り組んでいかなければ解決は難しい。しかも、材料といっても素材とコンパウンドとも違う。このためSamsungは日本に来なければサプライチェーンにまで踏み込むことができなくなる。

日経新聞には、「サムスンは今回、立体構造の半導体デバイスの組み立て・試作ラインを整備する。高い技術力を持つ日系の素材・装置メーカーとの共同研究によって生産技術を高める」と報じられており、日経報道が正しければ、Samsungの日本の拠点は先端パッケージセンター的な研究施設になるであろう。

(2023/05/15)
ご意見・ご感想