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生成AIをAmazonも提供、三井化学はIBMと共同で材料の用途探索に利用

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このところChatGPTがテレビでも連日のように話題になっているが、半導体産業への影響も大きい。ChatGPTに代表される生成AI(Generative AI)は、これから多くの分野で適用されそうだ。Amazonが生成AIに参入、三井化学は材料の新規用途探索に日本IBMと協力して生成AIを利用する。また、組み込みシステムのすそ野を広げるためソニーがRaspberry Pi(ラズベリパイ)に出資すると発表した。

4月14日の日本経済新聞は、Amazon.comがクラウドコンピューティングを通じ、文章などを自動的に作成する生成AIを提供すると報じた。ChatGPTはMicrosoftが出資するOpenAI社が開発したツールだが、Googleも生成AIをクラウド環境で提供しており、クラウドサービストップのAWS(Amazon Web Service)が生成AIに参入するのは時間の問題だった。


Building with Generative AI on AWS / Amazon Web Service

図1 AWSのクラウド上で生成AIを作る方法 出典:Amazon Web Service


今回AWSが提供する製品は、Amazonの基盤モデルなどをAPI(Application Programming Interface)で利用できる「Amazon Bedrock」(図1)というサービス(参考資料1)。このサービスを使えば、ユーザーが望む適切なモデルを簡単に見つけられるようになり、見つけたモデルを迅速に自社独自のデータにカスタマイズでき、使い慣れたAWSのツールや機能で自社のアプリケーションに統合して使うことができるという。大規模なコンピューティングパワーが必要な生成AIをクラウドベースで利用できるため、中小企業やスタートアップなどが自社の開発スピードを上げることができる。

AmazonはもともとAI(機械学習)を誰でも使えるようなサービスを提供しており、文章作成やストーリー、画像、動画、音楽(作曲)などのコンテンツやアイデアを作成できる生成AIでも機械学習を使っている。参考資料1によると、Transformerベースのニューラルネットワークアーキテクチャが開発されたおかげで、数十億という膨大なモデルのパラメータ数が出てきているという。実際、筆者がChatGPTに問い合わせてみると、ChatGPTに使われているGPT-3を学習させるには数千台のマシンと175億個のパラメータが必要だったと答えている。

AWSは、学習用向けのAIチップ「Trainium」と推論向けAIチップ「Inferentia」を開発してきた。学習チップを使えば学習コストを最大50%削減でき、800Gbpsのネットワーク上の複数のサーバーで学習を分散させることができる。学習チップは最大3万個(6Exa FLOPS)まで拡張できるとしている。今回は1600Gbpsネットワークを使えるTrn1nインスタンスを提供する。

三井化学と日本IBMは12日、IBMのAIであるIBM Watsonに生成AIを融合することによって、三井化学の製品の新規用途探索の高精度化と高速化の実用検証を開始したと発表した。13日の日刊工業新聞が報じている。三井化学は22年6月からWatsonを使った新規用途探索を全社的に展開しており、20以上の事業部門で100以上の新規用途を見出したという。例えば、SNSデータ分析では、「ある地方電鉄の車中で、カビ臭い」という投稿が多いことを見つけ出し、従来の営業手法では思いつかなかった電車内の防カビ製品の販売活動へとつなげている。

しかし、新規用途の発見には時間がかかるという問題があった。このため、OpenAIを活用した実証検証を開始し、GPTに対する支持を洗練させて三井化学が注目すべき新規用途候補を特定・抽出する。この結果をWatsonに適用しキーワードをさらに絞り込み分析することで短時間に用途を見つけるようにしている。

世界のユーザーに日本のマイコンやSoCを使ってもらおうという動きもある。ソニーの半導体部門であるソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)が、英Raspberry Piに少額の持分出資をするのは、SSSのエッジAI向け開発プラットフォーム「AITRIOS」(参考資料2)をラズパイのコミュニティに提供し、AITRIOSを広めるため。ラズパイは、ソニーグループと製造委託からイメージセンサをはじめとする半導体製品の取引まで長期的な戦略パートナーだと、ラズパイCEOのEben Upton氏は述べている。

ラズパイと同様、オープンソースのボードコンピューティングを提供するArduinoへの出資(1000万ドル=13億円)をルネサスエレクトロニクスが22年6月に行っている。ルネサスは自社のマイコンやSoCチップをArduinoのプラットフォームに搭載してもらうという狙いがある。Arduinoはエレクトロニクスやプログラミングの知識のない学生でも簡単に電子機器のボードを試作できることを目的としたハードウェアとソフトウエアのプラットフォーム。ルネサスにとって3000万人のArduino開発ユーザーにリーチできる。

参考資料
1. 「AWS で生成系 AI を使用した構築のための新ツールを発表」、Amazon Web Servicesブログ (2023/04/13)
2. 「ソニー、マシンビジョンや車載カメラ用にAI解析の開発環境を提供」、セミコンポータル (2021/10/29)
 

(2023/04/17)

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