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生成AIがAIレベルを格段に上げ、AIと半導体教育に焦点が集まる

AIが再び脚光を浴びている。ChatGPTを開発したOpenAI社の時価総額が圧倒的な強さを示し、Metaも対話型AIのプラットフォームを提供、AI向けの半導体株が上昇を示している。ソニーはAI人材を確保するためフルリモート勤務を導入した。AIと半導体人材確保は重要で、TSMCは16nmと7nmノードのFinFETをPDKに組み込んだプログラムを学生向けに提供する。

図1 テキストを入力すると絵を描いてくれる生成AI「DALL・E2(ダリ2)」 「テディベアが小物を買い物している浮世絵風の絵を描いて」とテキストを打つと描いてくれた絵の一つ 出典:OpenAI社

図1 テキストを入力すると絵を描いてくれる生成AI「DALL・E2(ダリ2)」 「テディベアが小物を買い物している浮世絵風の絵を描いて」とテキストを打つと描いてくれた絵の一つ 出典:OpenAI社


2月26日の日本経済新聞は、オランダの調査会社DealRoomが発表した、未上場で企業価値が10億ドル以上の会社がすでに6社以上誕生していることを伝えた。それらのトップがChatGPTなどの生成AIを開発しているOpenAI社であり、その時価総額が290億ドルに達するという。GoogleもサンフランシスコをベースにしたAnthoropic社に約3億ドルを投資しGoogle Cloudを貸し出しGPUとTPUを駆使して学習させている。OpenAIと比べると企業価値は1/10の29億ドルしかないが、これでも2位につけているという。

OpenAIのChatGPTは、どのような話題でも対話できる初めてのチャットボットであるが(参考資料12)、差別や偽情報を防ぐ必要がある。Metaは、対話型AIのプラットフォームである、20の言語に対応する大規模言語モデルを学術機関や企業に所属する研究者、政府などに提供する、と25日の日経が報じた。Metaは処理能力が低くても使えるモデルを開発しており、研究者が利用しやすい環境を整え、課題の解決につなげる。

従来のAIはかつて囲碁の名人を破ったことで注目を浴びたが、AIの弱点をコンピュータで分析した結果、今度は人間がAIに勝った、と報じた英Financial Timesの記事を22日の日経が記載した。米国のアマチュアが囲碁AIの「KataGo」に15回対戦し14勝したという。従来のAIの一つのモデルだけでは限界があることを示している。

新しい生成AIの登場によって、AI学習用に使われているGPUのメーカーNvidiaの株価が23日の米国市場で14%上昇し、東京株式市場の半導体関連株を押し上げた、と25日の日経が報じた。日経平均株価は24日1%上昇したが、東京エレクトロンの株は7%、アドバンテストでは8%、ディスコの株は7%と上昇したという。Nvidiaは、2〜4月期の売上高予想を65億ドル(約8700億円)前後と市場予想(63億ドル)を上回る強気の見通しを打ち出した、と日経は報じたが、NvidiaのJensen Huang氏はChatGPTの普及によって流れが変わったと見ている。

ソニーの半導体部門であるソニーセミコンダクタソリューションズは、AI人材を確保するため、出社を強要せず、フルリモート勤務を導入する。地方在住で高度なソフトやAIのスキルを持つ個人事業主などの応募にも期待する。ソニーの半導体は、単なるデバイス・プロセス技術だけではなく、AIやソフトウエアなどの人材も半導体システムソリューションには欠かせないことから、フルリモート勤務を推奨するようになった。ソニーの得意なCMOSイメージセンサからの画像データを解析するのにAIを使うが、AIモデルを開発したり、クラウドとの接続のソフトウエアを開発したりするための人材も必要になっている。

AIと半導体はこれからも重要になるが、広島大学ナノデバイス研究所が中心となり、半導体の共同研究や人材育成を担う産官学の連携組織「せとうち半導体共創コンソーシアム」が発足する。広島大ナノデバイス研が東広島キャンパス内に3階建ての新棟「Jイノベーションハブ棟」を建設しており、3月完成の予定。コンソーシアムは、ここを拠点として4月から共同研究や人材育成を行う。

TSMCはFinFETを使う16nmと7nmプロセスノードで、MPW(様々なユーザーのICを搭載したウェーハの試作サービス)サービスを大学研究者に提供する。3次元トランジスタであるFinFETを使った設計は従来のプレーナトランジスタの設計とは大きく異なるため、FinFET向けのPDK(プロセス開発キット)が必要となる。大学の研究者は、この最先端のエリアスケーリング技術の設計手法を習得できる。エリアスケーリングは線幅を縮小せずに3次元構造をフル活用して面積を小さくする技術。FinFETだけではなくGAA(ゲートオールアラウンド)トランジスタでも適用できるため、これからのLSI設計には欠かせない。

なお、24日の日刊工業新聞は、TSMCの第2工場を熊本にも建設する方向で調整に入ったと伝えた。TSMCは第2工場を日本にも作る可能性を1月の決算報告で示唆したが、具体的にはまだ何も発表していない。


参考資料
1. 岡島義憲、「人工知能への道(6)〜生成AIの意味する所」、セミコンポータル (2023/02/21)
2. 「ChatGPTの半導体産業へのインパクト、1万個のGPUがコア技術に」、セミコンポータル (2023/02/17)

(2023/02/27)
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