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ロシアのウクライナ侵攻で懸念される半導体産業への影響

2月24日、これまでの緊張状態を打ち破りロシアがウクライナへ一気に侵攻した。これに対して米国商務省はロシアへの輸出規制を発表した直後、米半導体工業会(SIA)は、この輸出規制を支持する声明を出した。また、半導体市場調査会社であるTrendForceやTECHCET(図1)はいち早くその影響に関するニュースリリースを発表した。

RUSSIA-US Tensions Materials Supply-Chain Threats / TECHCET

図1 TECHCETが報じた半導体材料への影響 出典:TECHCET


ロシアのウクライナ侵攻に対して、米欧日は追加経済制裁することを決めた。欧州ではロシアからの天然ガスや石油を送るパイプラインがロシアからウクライナを経由して通っている。ロシアのプーチン大統領はこれまでパイプラインを遮断することをほのめかしてきたが、今のところは様子見である。むしろ、核の抑止をチラつかせており核戦争になる危険性を含んでいる。もし核戦争となれば、ロシアは欧州だけではなく米国と日本にも核ミサイルを撃ち込む危険性が高い。これに対して西側諸国は外国との取引をできないようにするため外国主要銀行との外取引に使われるSWIFTからロシアを締め出すことを決めた。

こういった緊迫情勢の中で、半導体産業への影響に関する議論も多い。おおざっぱではあるが、現時点(2月28日)で半導体への影響をいち早く表明した情報が、台湾を拠点とするTrendForceのプレスリリース(参考資料1)と材料系米市場調査会社TECHCETのニュース(参考資料2)であろう。

これらのニュースによると、半導体製造に使われるNe(ネオン)ガスはウクライナ産が世界の70%に及び、ロシア産のPd(パラジウム)金属は市場の45%を占めるとしている。ロシア産のC4F6ガスも先端ロジックで使われている。Neガスは、短期的には十分な蓄積があり、半導体製造に大きな影響を示さないだろうとTrendForceは述べているが、長期的には影響が出てくると思われるが、それについては述べていない。

180nmプロセス以下の半導体製造ではKrF/ArFエキシマレーザーが使われるが、KrF/ArFガスとの混合させるためにNeガスが使われるという。複数のファウンドリによれば半導体製品の75%が180nm以下の製品だとしている。TSMCとSamsungが使っているEUVリソグラフィを除けば、180nm〜1xnmノードの製品は90%にも及ぶという。

また、プラズマエッチングやプラズマCVDでもキャリアガスとして不活性ガスが使われているはずだが、そのキャリアガス用途でのNeガスを議論したレポートは筆者はまだ見ていない。ウクライナでのNeガスは、ロシアで生産する鉄鋼製造の副産物として生成され、それをパイプラインでウクライナへ送り、ウクライナで半導体グレードに精製しているといわれている。

半導体材料に関する調査会社として定評のあるTECHCET(参考資料2)によれば、C4F6ガスはエッチングガスとして使われ、ロシアから米国に輸出され、米国で半導体グレードに精製している。Pd金属はロシアが世界の33%を占め、南アフリカと並んでいるという。半導体ではセンサやMRAM、パッケージングでのメッキなどで使われており、自動車用途では排ガスを抑えるための触媒として広く使われている。

2月25日のTrendForce(参考資料3)によれば、Al(アルミニウム)やNi(ニッケル)、Cu(銅)などの非磁性金属もロシアは豊富に生産しており、Niの世界シェアは9%に及ぶという。トップはインドネシアの37%だが、高純度Niの生産は世界の22%をロシアが生産しているとする。

ロシアのウクライナ侵攻を受けて、米国商務省が輸出規制を打ち出したのに対して、SIA(米半導体工業会)は、ロシアが輸入している米国製チップは0.1%しかなく直接の影響は少ないため、商務省の方針を支持する声明(参考資料4)を出している。またロシアのICT市場は、全世界の4.47兆ドルに比べ、503億ドル(約1.1%)と小さい。ロシアとウクライナ以外のガスや材料のサプライヤーがたくさんいるため、供給が途絶える直接のリスクは少ないとSIAは見ている。

また28日の日本経済新聞は、モバイル通信業界最大の展示会であるMWC(Mobile World Congress)において、ロシアの展示スペースを設けないことを報じた。開催者であるGSMAは「命が悲惨にも失われている現状を考えると、MWCは重要ではないように思われる」としながらも、「MWCはコネクティビティ(つながり)が人々や産業、社会の繁栄を確かなものにできるというビジョンを持ったイベントだ」と説明したと報じている。

参考資料
1. "Ukrainian-Russian Conflict Affects Semiconductor Gas Supply and May Cause Rise in Chip Production Costs, Says TrendForce", TrendForce (2022/02/15)
2. "Supply-Chain Threats from Russia-US Tensions〜Can Dependencies on Russia Materials Impact US Chip Production?", TECHCET (2022/02/01)
3. "War Rages in Ukraine, Global Raw Nickel Prices for Power Batteries Likely to Rise, Says TrendForce", TrendForce (2022/02/25)
4. "SIA Statement on Sanctions on Russia", SIA (2022/02/24)
5. "Russia-Ukraine war to cripple semiconductor industry globally", BusinessToday.In (2022/0224)
6. 長見晃、「ウクライナ侵攻インパクト関連:最先端半導体技術を巡る実態模様」、セミコンポータル (2022/02/28)

(2022/02/28)
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