再生可能エネルギー需要が拡大、長期的な半導体需要にも
カーボンニュートラルの動きが活発化している。再生可能エネルギーを使った電力を直接購入する企業が増えている。その動きから電線の需要増を捉え、住友電工が送電線事業の売上額を2030年度に2019年度比2倍に増やすという目標を掲げた。さらにスマホメーカーの中国小米が本格的にEVに乗り出す。それに向けたSiC半導体需要がようやく増え始めた。
2050年にCO2排出量を実質的にゼロにするというカーボンニュートラルに向け、再生可能エネルギーの利用やCO2を出さないEVの事業開発などが活発になっている。9月8日の日本経済新聞は、IT企業が再生可能エネルギーの発電事業者から電力を直接購入する動きが世界で広がっている、と報じた。発電事業者は安定需要を確保でき、購入企業は大手電力会社を通さない分、再生エネルギー由来の電力を安く買えるというメリットがある。日経によると、最大の購入企業はAmazon.comで、2020年に新たに500万kWの契約を結び、2021年6月時点で世界200カ所強、合計960万kWの再生可能エネルギー発電所からデータセンターなどで使う電力を購入している。この「コーポレートPPA(電力購入契約)」と呼ぶ仕組みは、新設発電所と10〜25年程度の契約を結ぶのが一般的だとしている。
Appleはスマートフォンの製造などに向け800万kWを再生可能エネルギーに替えるための調達を増やすとしている。取引先にも再生可能エネルギー利用を求め、TSMCは20年、90万kWの洋上風力発電所と契約したという。20年にはVerizonやAT&T、General Motorsなども導入したという。
市場調査会社のBloomberg NEFの調べでは、世界のコーポレートPPAは2020年に発電能力ベースで2360万kWと2015年比で5倍となった。2020年の再生可能エネルギーの新設発電能力は2億6000万kW強でコーポレートPPAはその1割に当たる。
9日の日経産業新聞によると、住友電気工業は送電線事業の売上額を11年で2倍の4000億円にするという目標を掲げた。再生可能エネルギーを都市部に運ぶための長距離送電線の需要拡大に対応する。風力やソーラーの発電所は都市部から離れており、特に風力は洋上発電が増えている。100〜200億円をかけて新工場を建設するが、22年3月期には欧州だけで400億円分を受注する見込みだという。国内でも需要増がありそうだ。政府は30年の電源構成で、再生可能エネルギーの比率を現在の2割から36〜38%に引き上げる案を示している。
中国では小米がEV事業を手掛ける新会社を設立したと発表した。新会社「小米汽車」(汽車は中国語で自動車の意味)には、今後10年間で100億ドルを投資するとしている。3月に参入を発表して以来、10社余りの同業他社や数十社の協業パートナーと話し合いをしてきたと10日の日経産業は報じている。
EVにはシリコン半導体の大きな需要が見込めるが、シリコンよりも絶縁電圧が10倍も高いSiCパワーMOSFETも少しずつ浸透している。最初はTesla Motorsのモデル3でSiCトランジスタが使われ始めたが、TeslaからスピンオフしてEVの高級車を市場へ投入したLucid Motors社もSiCを搭載している。トヨタの燃料電池車「MIRAI」の新モデルにもデンソー製のSiCを採用している。Infineon TechnologiesはEVのインバータ向けSiCモジュールを5月に投入しており(参考資料1)、7日の日経は「韓国の現代自動車は次世代EVにインフィニオン製SiCの採用を決めた。消費電力のロスを抑えた分、シリコンに 比べ航続距離を5%以上延ばせる」と報じている。
SiC MOSFETはシリコンのIGBTと比べて耐圧だけではなくスイッチング速度も速い。ドレイン側にP層を設けるIGBTは、電子と正孔という二つのキャリヤを使う分、電流容量を多く取れるが、オンからオフに変化する時に少数キャリヤの蓄積時間によってテールを引いてなかなかオフにならない。SiCはMOSFET構造で多数キャリヤしかを使わないためこの長い蓄積時間がない。
これまでSiCショットキーダイオードをメインにやってきたON SemiもSiCパワーMOSFETへの投資を増やす。SiC結晶メーカーのGT Advanced Technologyを8月に買収し、結晶の安定供給を確保した。今後、750〜1200Vの高耐圧用を狙い、GaNではなくSiCに注力すると同社CEOのHassane El-Khoury氏は述べている。
参考資料
1. 「Infineon、EV向け第2世代のSiCパワーモジュールをサンプル出荷」、セミコンポータル (2021/05/28)