日本でもやっと注目された半導体、政府の半導体戦略を歓迎する
経済産業省が半導体・デジタル産業戦略を発表して(参考資料1)2週間以上経過した。半導体では研究開発に投資資金がかかり、売上額の10〜15%を研究開発費に充てている企業が多い。このため世界では研究開発費への税制優遇や補助金などの支援が通常化している。政府は半導体支援を表明、今朝の日本経済新聞は1000億円規模の基金を新設すると報じた。キオクシアとソシオネクストにポスト5G向け半導体開発に100億円を拠出する。
6月21日の日経によると、半導体や蓄電池、AI、量子技術など経済安全保障に直結する重要技術を後押しする。米国が対中国を意識して、重要技術の国家戦略をまとめたことに対する日本の対応といえる。先日のG7では、欧州を巻き込んで対中国の「一帯一路」構想に対抗する西側諸国の協力体制を作ろうということが叫ばれた。今回の「安全保障に直結する技術」という捉え方は、G7を意識して日本も同様に取り組むことを示したもの。経済と安全保障につながる技術に力を入れることは、これまでの日本では意識が少なかったが、半導体や蓄電池、AIなどへの支援は国内の技術を底上げすることにつながる。
また、日経の別の記事で、経済産業省がポスト5G向けの半導体開発のため、キオクシアとソシオネクストに計100億円を拠出すると報じられた。日経は、重要性が高まる先端半導体を国内で製造する体制作りを政府は急いでいる、と報じたが、ソシオネクストのようなファブレス半導体企業への支援は新しい試みといえそうだ。
経産省の半導体戦略の目玉は何と言ってもTSMCの誘致に絞られているように見える。海外ファウンドリとの合弁工場の設立などを通じ国内製造基盤を確保する、と明記している。国内の後工程関連企業20社以上がTSMCとの共同開発に乗り出している。ただし、TSMCはあくまでも前工程のファウンドリであり、前工程と関係するウェーハレベルパッケージの一つである、InFO(Integrated Fan Out)と呼ばれる実装技術で先端半導体(主にスマートフォン向けアプリケーションプロセッサ)を扱ってきた。InFOパッケージの上にPoP(パッケージオンパッケージ)でメモリやモジュールなどを3次元実装するという先端的な実装方法だ。
スマホ向けのプロセッサのパッケージだけではなく、パソコンやサーバーなどのCPUのパッケージもリードフレームではなくプリント回路基板(PCB)が使われて久しい。このパッケージ用のPCBは最小寸法が10µm、20µmと微細であり、もちろん多層基板である。ほとんどのPCBは今や中国で生産されているが、半導体パッケージ用のPCBは日本がまだ強い分野で、イビデンと新光電気工業がCPU向けのPCBに強い。
TSMCとしては、イビデンや新光電気と一緒に次世代パッケージの開発に取り組みたいのである。次世代パッケージには微細な配線のパターニングに使うリソグラフィやレジスト、エッチングなどの前工程のプロセス技術が不可欠となる。ここは日本の半導体製造装置メーカーが強い所。さらに、パッケージとしてのPCBに求められるのは、こういった基本技術であり、次世代パッケージにつながる日本の材料技術、実装技術である。
日本の基本技術から見ると、TSMCだけに供与するのではなく、IntelやGlobalFoundries、ASEなども誘致し、彼らにも使えるようにすることで顧客獲得にもつながる、という視点も必要ではないだろうか。また、かつて台湾が進めたように、ファウンドリだけではなくファブレスも強化するという戦略も必要だろう。MediaTekやRealtek、Novatek等世界的なファブレスが台湾で育ち活躍できる場があるからこそ、TSMCやUMCなどがまだ小さいうちに成長できた。特に、ファブレスの中小のスタートアップ企業は売り上げが立たないうちから研究開発に資金を投じなければならないため、政府支援が欠かせない。
参考資料
1. 経済産業省がまとめた半導体戦略を読む (2021/06/07)