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原子移動スイッチを利用する新FPGAをNECがサンプル出荷へ

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NECは、金属原子移動型スイッチ「NanoBridge」を利用したFPGAを、2017年3月に産業技術総合研究所と共同で開発したと発表していたが、このFPGAのサンプル製造を始め、2017年度中にサンプルを出荷すると10月19日に発表した。久々にメモリ以外の市場で、日本からの新しい半導体ICが登場する。

図1 金属原子移動型スイッチの動作原理 出典:NEC、産業技術総合研究所

図1 金属原子移動型スイッチの動作原理 出典:NEC、産業技術総合研究所


NECの金属原子移動型スイッチNanoBridgeは、銅電極と固体電解質を挟んでRu電極の間に電圧をかけると銅原子がRu電極側に移動して電極同士がつながり電流が流れる(図1)というもの。逆電圧をかけると、銅が元の電極側に戻り、電流は流れなくなる。これによって、オンとオフを表現する。このスイッチを使ってFPGAをプログラムする。この方式のセルは、半導体デバイスの省電力化を目指した共同研究組織LEAP(超低電圧デバイス技術研究組合)でも研究されていた(参考資料1)。商用化するのはこれが初めて。

従来のFPGAは、SRAMをベースにしており、回路を切り替えるためのスイッチの面積が6トランジスタ分あるため面積が大きかった。この原子スイッチを利用するとスイッチの面積はSRAMベースの1/30と小さくなり、しかもLUT(ルックアップテーブル)として用意するCMOSトランジスタより上の配線層に形成するため、実質的には面積ゼロと言える。

加えて、原子移動型スイッチのFPGAは、SRAMを使わず、一度書き込むとスイッチ状態が変わらない不揮発性なのでソフトエラーに強い。このため、宇宙線や放射線の多い、航空機内や宇宙環境での信頼性が高い。しかも不揮発性であるため消費電力が低い。

FPGAは専用回路をプログラムで設計できるロジックICだけに、ソフトウエアベースのCPUでは得られない高速化が可能である。CPUは最もフレキシブルなICで、ソフトウエアだけで自由に好きな機能を実現できるが、ソフトウエアプログラムによってはサブルーチンをぐるぐる回り、演算速度が遅くなるという欠点がある。このため、HPC(高性能コンピューティング)応用では、並列演算が得意なGPUと併せて用いられてきた。HPCの中でも、通信モデムでのバタフライ演算のようにアルゴリズムが固定しているような回路では、FPGAで実現するとさらに高速になる。このため、IntelはFPGAメーカーのAlteraを買収し、XilinxはQualcommと提携した。

今回、NECがサンプル出荷するのは、10万ゲート級の規模の小さなFPGAであるが、今後の市場を見ながらIoT機器の高度化を目指すとしている。IoTデバイスは少量多品種の世界になるだけに、エッジコンピューティングやセンサフュージョンなどの回路でFPGAは有効なICとなりうる。製造は300mmウェーハのファウンドリに依頼するわけだから、NECはファブレス半導体メーカーといえるが、今のところファブレスメーカーになるつもりはなく、IPとしてランセンスビジネスを展開するようだ。

日本での新しい半導体ビジネスとして、もう一つ紹介しよう。東京エレクトロンは、米国ベンチャーのSTT (Spin Transfer Technologies)社と提携、ST-MRAMの商用化を促進する、と16日発表した。TELのMRAM向けのPVD装置を使い、MRAMを開発する。STT社のMRAMもスピン注入型の垂直磁気トンネル接合(pMTJ)を利用する。ST-MRAMはフラッシュよりも高速の不揮発性メモリであり、SRAMと比べセル面積がずっと小さく、しかも消費電力も小さい。ただし、書き替え寿命がDRAMやSRAMよりもずっと少ないため、DRAMとフラッシュをつなぐストレージクラスメモリとしての期待が大きい。

STT社のpMTJは20nm径まで微細化が可能だと同社のホームページに書かれており、TELのプレスリリースは、先端ロジックへの利用が有望視される、と述べている。先端ロジックとは、FPGAのことなのか、アプリケーションプロセッサのことなのか、はっきりしていないが、プロセッサには大量のSRAMがレジスタやキャッシュとして集積されているため、それらの置き換えの可能性がある。

参考資料
1. LEAP、FPGA用スイッチ、STT-MRAM、TRAMをVLSI Sympoで発表 (2014/6/10)

(2017/10/23)

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