やっと東芝がWestern Digitalと優先交渉に
東芝がWestern Digitalと東芝メモリ株式会社の売却に向けて優先交渉することを決めた、というニュースが8月25日の日本経済新聞に掲載された。22日の日経では、東芝とWDとのトップ会談を近々開き、WDによる訴訟取り下げを要請するもよう、と伝えていたから、急転直下の判断となった。また、政府の概算要求の季節となり、AI、IoT、5Gなどこれからのハイテクへの予算捕り合戦が始まった。
これまでの東芝経営陣による東芝メモリの売却経緯を見ていると、当初は入札にこだわり、WDからの注文にまともに答えてこなかった結果、訴訟にまで発展し、結論を出せずじまいでずるずると無駄な時間が経過した。東芝の融資・出資のバックになっている銀行団はあまりの遅さにしびれを切らし、「8月中に売却先と契約を結べなければ、融資枠から資金を引き出せなくなりますよ」と最後通告を迫った、と24日の日経は伝えている。
日経を見ていると、22日の朝刊では「東芝、WDと協議入り、半導体売却、月内決着へ機構と連携、不調なら再建策見直し」という見出しが載った。この時点では、東芝経営陣は、WDを取り込み、売却差し止めを求めた裁判所への申し立てを取り下げる、と報じている。ただ、WD陣営との協議が不調に終わった場合、東芝は新たな資本増強を含めた再建策の練り直しを検討することになる、との見方も掲載していた。これで振り出しに戻っては、銀行団としてはたまらない。もはや一刻の猶予も許されない状況なのに、のんびり感はいがめなかった。
さらに、売却交渉を中止し、メモリ部門のIPO(株式上場公開)などで乗り切る代替案に動くという憶測が広がっていた(24日の日経)。こののんきな代替案を知った銀行団は怒り、本気の最後通告を行ったという。すでに3月末で5529億円の債務超過という「倒産」状態になっているのにもかかわらず、東芝経営陣の本気度がこれまで欠けていたといえそうだ。
25日の日経報道にある通り、24日の経営会議で、KKR、産業革新機構、日本政策投資銀行を主要メンバーとするWD連合と優先的に交渉することを決めた、という段階にこぎつけた。WDは東芝との合意に基づき半導体メモリ事業の資産査定に入っており、来週(8月27日からの週)にも作業を終える(23日の日経)。WDは産業革新機構らと連合を組み、1兆9000億円の買収案を提案しているが、資産査定の結果、この数字で行けるのかはまだわからない。ここまでごたごたを繰り返して来た経営陣の拙さから、価値を下げられる恐れもある。というのは、これまでの「騒動」の結果、重要な3D-NANDフラッシュの量産立ち上げに出遅れ、1位のSamsungには引き離され、3位のWDに追いつかれ、4位のMicronに迫られてきたからだ(参考資料1)。
東芝の経営陣による原子力問題が明らかになる前まで、2位の東芝は1位のSamsungとの距離を縮め、むしろ迫っていた(参考資料2)。現在のNANDフラッシュ製品は供給不足で単価が値上がりし、NANDフラッシュ市場は非常に好調で数十%(前年比)で伸びている。にもかかわらず、東芝は事業を伸ばせなかった。東芝のメモリ事業は本来の強さを評価されない恐れがある。
政府の概算要求は、IoTやそのセキュリティ強化、AI用の半導体チップ開発、スマートエネルギーなどに向け、経済産業省は17年度当初予算と比べ6%増の1兆4197億円の要求額を決めたと24日の日経が報じた。25日の日刊工業新聞では、AI半導体チップ開発支援に126億円の他、IoTの応用の一つ第4次産業革命や関連するソフトウエア開発にも支援するという。文部科学省は18年度にAIやビッグデータ、IoTなどを活用する大型産学連携プロジェクト案を公募、5年間で100億円超を見込むという。
また、24日の日経は、総務省内に「情報セキュリティ政策局」を新設する方針を明らかにした、と報じた。2018年度予算案の概算要求に盛り込むという。
参考資料
1. NANDフラッシュランキング;東芝、2位を死守するも背後に影 (2017/08/23)
2. NANDフラッシュ、東芝とSamsungの差、再び縮まる (2014/11/11)