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英国のEU離脱はハイテクベンチャーには痛手

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日本時間、先週の金曜日、英国がEUから離脱するというニュースが世界中を駆け巡った。日本のマスコミは一斉に、円高になり、不況がやってくる、とばかりにネガティブな報道に終始した。これが正しいかどうかの判断は時間を待つしかないが、少なくともテクノロジーのベンチャーにとっては、不利な状況になる。

英国のEU離脱を問う国民投票は、51.9%対48.1%という僅差で離脱が決定した。活動期間内にBrexit(Britain exitの造語)という言葉が生まれ定着した。まるでお祭りムードのように、離脱=新しいこと、のようなメッセージが支持を受けたようだ。ただし、混乱も多い。米国の有名なニュース専門番組のFox Newsが、英国が国連(UN)から離脱、というテロップまで流した。

英国内でも混乱が続き、投票のやり直しを求める声も強く、すでに200万もの有権者からの署名が集まっているという。署名が10万人を超えると議会で議論しなければならないため、この声は議会までは届けられる。ニュースによると離脱に賛成した人の中には、「こんなことになるとは思ってもいなかった。どうせ残留になるだろうから、反対票を入れておいた」という人までいた。議会がどのような判断を下すか、まだ予断は許さない。

英国のEU離脱によって、どのような影響があるだろうか。6月27日の日本経済新聞は、「英離脱ドル不足に拍車 邦銀、調達コスト急増」という見出しを掲げた。この通りだとすると、ドルが求められるため、ユーロもポンドも安くなるが、円もドルに対して安くなるはずだ。ただ、日曜日の報道番組では各局とも軒並み、円高を報じ、日本経済がダメになると論じていたが、どの局も根拠に乏しかった。

テクノロジーでは影響は避けられない。英国のベンチャーの育成にはEUからの出資、補助金が大きかったからである。セミコンポータルでは「英国特集」を通じて、EUからの補助金で立ち上げたベンチャーの話を何度か伝えてきた。例えばプラスチックエレクトロニクスでは、Wales大学のWCPC(Welsh Centre for Printing and Coating)では英国政府だけではなく、EUのEuropean Regional Development(ERD)からも資金を得ており、産業界との共同プロジェクトを運営している(参考資料1)。また、EUからの資金で、世界の450mmウェーハの動向も調査した(参考資料2)。さらには、EU主導のプロジェクト(例えば、ENIAC:European Nanoelectronics Initiative Advisory CouncilやARTEMISという名の組み込みシステムの協会)にも英国が積極的に参加してきた。

EUから離脱することは、英国のベンチャーにとって、EUの資金を当てにできないことを意味する。英国の半導体産業は、ARMやImagination TechnologiesのようなIPベンダーやWolfson Microelectronics、CSRなどのファブレスが活躍していたが、Bluetoothで成長してきたCSRはQualcommに買収された。IoT向けのCSR Mesh規格は、Bluetooth Meshと名を変えて、多数のIoTデバイスをつなぐメッシュネットワークトポロジーに有効な規格になった。英国の半導体産業の規模は、決して大きくないが、世界のチップへの影響は極めて大きい。ARMコアをベースにしたSoCは数えられないくらい(数十億個とも言われている)出荷されており、ImaginationのグラフィックスIPを集積したSoCはスマホの標準品となっている。SamsungもAppleもスマホ用のアプリケーションプロセッサはARMコアをベースにしている。

英国から生まれる半導体やナノテクノロジーのベンチャーにとって、資金源の一つが断ち切られたことは、今後の起業活動がやりづらくなることは間違いない。英国はイノベーションを生む風土があり、米国はそれを商用化する風土がある。日本はモノづくりが得意で、量産はアジアが得意だ。世界的なサプライチェーンへの影響はこれからじわじわと出てくるだろう。

参考資料
1. 英国特集2010●プロセスに注力しコラボで実用化を早めるウェールズ大 (2010/04/20)
2. 100億ユーロの欧州半導体産業計画の全貌が明らかに (2013/08/09)

(2016/06/27)

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