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100億ユーロの欧州半導体産業計画の全貌が明らかに

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欧州が半導体産業(最近ではナノエレクトロニクス産業と表現することが多い)に100億ユーロ(約1兆3000億円)を投資するという計画(参考資料1)が明らかになった。この計画は、Future Horizon社のCEOのMalcolm Penn氏が450mmウェーハの実情を調査、そのレポートをベースに持ち上がった。来日したMalcolm Penn氏(図1)に、欧州計画について聞いた。

図1 欧州プロジェクトの仕掛け人、Future HorizonのMalcolm Penn氏

図1 欧州プロジェクトの仕掛け人、Future HorizonのMalcolm Penn氏


かつて、米国のボーイング社に対抗して、欧州全体でAirbus社を作った例があるが、今回の半導体計画は、チップのAirbus社のようなものだ。欧州ではR&Dのコラボレーションは米国よりも行いやすい環境にある。米国では反トラスト法に抵触するため、水平レベルの企業同士のコラボレーションは競争前のR&Dでさえ、できない。欧州では、IMECが世界中の半導体企業と一緒に研究開発しており、テーマごとにバーティカルな(サプライチェーンからOEMまで)コラボレーションもしている。計画全体では最終的に1000億ユーロに規模になるが、この金額には海外企業の投資も含んでいる。

2年前に調査した450mmレポートがきっかけになって、GDPを作り出すKET(Key Enabling Technology)が将来の成長に欠かせないことを政府が認識するようになった。KETとしての6大プロジェクトの一つが半導体(マイクロ/ナノエレクトロニクス)である。研究開発と製品ビジネスとの間には「死の谷」と呼ばれるギャップがある。欧州はとかく、研究開発は優れていてもビジネスで価値を作り出すことが苦手だった。今回のプロジェクトは、死の谷に橋をかけようとするもの。

今回のプロジェクトには3つのテーマがある。一つは450mmウェーハプロセス開発、二つ目はセンサやアナログなどを集積するMore than Mooreで、三つめがMore Mooreである。これらが相互に関係することを政府に理解させ、大きなビジョンを描くように勧めた。従来産業界は、More than Mooreの道を選ぼうとしてきた。こちらの方が楽な選択肢だからである。しかし、More than Mooreだけでは10年後の未来が見えない。かつての130nmプロセスは90nm、65nmへとやってきた。2018年になると、おそらく28nmが成熟したプロセスになっているだろう。しかし、この成熟した28nmプロセスを運営できるのはTSMCだけになる。今のままでは、日本にも欧州にも28nm工場はなくなる。これではいけないということで、More than Mooreだけではなく、More Mooreも450mmも同時に進めなければならない。だからこの三つはセットで開発を進める。

では、なぜ450mmウェーハか。二つ理由がある。一つは、いずれ大口径化に行くことが自然の流れだからである。例えばTSMCの主流の製品は300mmウェーハを使っている。彼らには1000社もの顧客がいる。そのうちの90%が少量多品種の顧客である。TSMCでは300mmウェーハの比率は年々高まり、今やウェーハの60%が300mmである。Infineonはパワーデバイスに、Texas Instrumentsはアナログ製品の製造にそれぞれ300mmラインを使っている。5年前とは全く違う。

もう一つの理由を説明しよう。微細化が進むため、450mmウェーハラインは枚葉式を使って完全自動化されるだろう。デポジションやエッチング、すべてのプロセスが枚葉式になる。少量生産であろうと大量生産であろうと、バッチ処理はもはや意味を失う。10nmプロセスでは、原子を操作しなければならないほどの微細なノードになり、自動制御が必須になる。10nmノードでは1チップ内の2つのトランジスタが異なる挙動を示すようになり、制御性が重要な技術となる。

このプロジェクトは欧州で実施されるが、欧州以外のメーカーを排除する訳ではない。今や、IntelやMicrosoftでさえ、独占的ではない。TSMCも独占的ではなくなる。TSMCは、極めてプロフェッショナルであるし、その顧客はTSMCを尊敬している。だからTSMCが参加したいと言えば参加を歓迎する。それぞれが役割を持ち、「死の谷」をつないでいけば、みんながWin-winになる。

すでにIntelはアイルランドに最先端の14nm FINFETプロセスラインの工場を建設中であり、間もなく完成する。2014年には生産を開始するだろう。この工場は450mm-readyとしている。すなわち、450mmウェーハをハンドリングできるような大きな装置を導入するため天井が高く、クリーンルームの面積は広い。2019〜2020年には450mmウェーハでチップを生産することになるだろう。ドイツのドレスデンにも半導体工場のインフラが整備されているため、ここに工場を立てない理由はない。おそらく合弁で運営し工場をシェアすることになるだろう。STMicroelectronicsやルネサスエレクトロニクス、TI、Freescaleなど、みんなで工場をシェアする、新しいビジネスモデルで半導体産業を活性化してくれることを願っている。

この計画では、欧州の市場シェアを世界の20%に上げることを目標としているが、その根拠は簡単だ。欧州と米国のGDPは同じ規模である。ところが半導体生産では米国が20%のシェアを持っているのに対して欧州は6%しかない。米国と同じレベルに持っていけるはずだ。

今回は、アナウンスメントだけだが、今後人材を集め、具体的なプランを描いていく。欧州域内外から人を呼び、年末までにプランを仕上げる予定である。(談)

参考資料
1. 欧州は100億ユーロ計画、米国は450mmを本格化、先端半導体開発を推進 (2013/07/04)

(2013/08/09)

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