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iPhone 6に見る半導体製品の変化

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先週、最大の話題はApple社のiPhone 6と6Plusや時計型端末のApple Watchなどの発表会であった。iPhone 6ファミリは発表前から画面サイズ (4.7と5.5インチ)が漏れ聞こえてきていたが、詳細はやはり正式発表を待たざるを得なかった。iPhoneを巡る半導体産業への影響も大きく、NANDフラッシュの東芝が四日市工場の新生産棟の起工式を行った。また先週IDFもあったが、これは長見レポート(参考資料1)を参照してほしい。

AppleのiPhoneに関する半導体ビジネスへの影響は極めて大きい。それもAppleと Samsungの訴訟を巡る争いに「おこぼれ」が回ってきた部品やサービスが大きい。Appleは、スマートフォンでSamsungと争ってきたものの、液晶パネルやアプリケーションプロセッサ、メモリ(DRAMとNANDフラッシュ)、センサ(MEMSやCMOSイメージセンサなど)などはできるだけSamsung製を排除してきた。メモリや液晶などのコモディティ部品は即座に他社製品に切り替えた。東芝のNANDフラッシュの納入先の一つがAppleだ。しかし、アプリケーションプロセッサの製造ファウンドリだけが最後に残っていた。今回、ファウンドリをSamsungからTSMCへ全面的に切り替えた。

iPhone 6が発売前であるため、分解してどの部品が使われているかという解析発表はまだないが、iPhone 5Sで導入したA7ではなくA8という新型アプリケーションプロセッサを使っている。A8はA7と同様、64ビットのアーキテクチャを採用しており、A7よりもCPUの処理能力は25%高く、グラフィックス能力は50%高いという。アンドロイドOSを利用するスマホに使われるQualcomm製の最新アプリケーションプロセッサSnapdragon 410/610/810も64ビットアーキテクチャを採用している。アンドロイドの64ビットはSnapdragonの出荷状況にリンクして市場に登場する。スマホはいよいよ64ビット時代を本格的に迎える。

iPhone5Sから導入されたチップとしてMEMSセンサからの信号処理を行うモーションコプロセッサもアップグレードされ、M7からM8へと変わった。M8はA8と協調しながらセンサ信号を処理するプロセッサで、CPUの負担を減らす。消費電力を削減するためのコプロセッサであろう。3G通話やビデオ/オーディオ再生、Wi-Fiなどの動作時間が伸びており、画面を大きくしながら消費電力を下げたのではないだろうか。

iPhone 6は画面サイズと解像度にばかり焦点が当たっていたが、実はセンサがもう一つ追加された。これまでの3軸ジャイロ、加速度センサ、近接センサ、環境光センサに加え、気圧センサが加わった。気圧センサは高精度の気圧をMEMSセンサで検出し、高さを知ることができるというもの。GPSと組み合わせれば、1階か2階かを区別できるほか、地下道に入りGPS電波が届かなくてもジャイロと加速度センサとの組み合わせから地下1階、2階の区別を付けられ場所を特定できるようになる。

モバイルネットワーク通信では2G/3G/CDMA/4G LTEと今使える全てのモデムを従来同様カバーしているが、今回はWi-Fiの新しい規格802.11acも使えるようになっている。これは最大のデータレートがMIMOなしで867Mbpsと、従来最高速の802.11nの150Mbps(MIMOなし)よりも速い最新の規格。ビデオ再生やダウンロードなどが高速になる。

また今回はハードウエア以上に大きく変わるのが、新しい支払決済機能だ。Apple Payと呼び、NFC(Near Field Communication)を利用する。この点、日本のおサイフケータイと似ているが、認証の仕方が違う。これまではクレジットカードのように長ったらしい番号を端末かサーバーに記録しておく方式だったが、1枚のカードをApple Payに加えると、独自のアカウント番号が割り当てられ、暗号化され、セキュアな場所に格納される。そのカードは、取引ごとに1回しか使えない認証番号(トークンと呼ばれる)とセキュアコードを発行する。たとえトークンをハッキングされてもそのトークンは次の取引には使えないため、よりセキュアな取引ができる。クレジットカード番号とは違い、取引の時に番号を見せる必要がない。しかもAppleのサーバーには詳細は記録されないという。

Apple Watchは残念ながら市場をあっと驚かせるようなものではなく、最初から予想されたデバイスだった。iPhone 6の発表で上がった株価は、Apple Watchの発表後はむしろ下がった。

Appleの発表は米国時間9日(日本時間は10日の深夜)にあったが、その数時間前に東芝は四日市工場で会見を行った。第5製造棟は昨年8月から増築し、今年の7月から装置の導入を進めてきた。9月から最先端の15nmプロセスによるNANDフラッシュ製品の量産を始めているという。新第2製造棟では3次元NANDの専用装置を設置するためのスペースを確保するための工事が始まった。東芝が建屋を建設、東芝とSanDiskが製造装置を導入する予定だ。

翌日の日本経済新聞によると、東芝は市場を見極めながら、1週間単位で10%弱の減産ができるようになっているという。NANDフラッシュは、SSD市場へは今後伸びていくが、スマホ市場では大きな伸びを期待できなくなりつつある。と言うのは、例えば音楽を聴く場合にスマホにダウンロードするビジネスモデルから、1カ月単位で聴き放題が可能なストリーミングビジネスが伸びると見られているからだ。ダウンロードしないためストレージ容量は少しで済む。NANDフラッシュにとっては、東芝のようなフレキシブルな増減産システムが収益を確保するうえで重要になる。

参考資料
1. 待ち望んだハイテク有頂天、アップルとインテルの新製品&技術発表 (2014/09/16)

(2014/09/16)

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