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先週ISSCC開催の割に少なかった新聞報道を分析する

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先週、ISSCC(国際固体回路会議)が開かれた割には新聞で採り上げられた話題は少なかった。この動きはIEDM(国際電子デバイス会議)でも同様だ。半導体産業をけん引する主要な企業がこういった学会で発表することが少なくなってきたことが大きい。大学からの発表が増えており、良い意味での産学共同がしっかりと根付いているからであろう。

全ての電子機器の心臓部を構成する半導体システムLSIだが、電子機器の売り上げが大きなアップルは基本的に学会発表しない。世界半導体トップのインテルは今回のISSCCでは昨年の13件から今年はわずか1件、第2位のサムスンも昨年の10件から今年は3件と減らし、第3位に躍進したクアルコムはゼロ、という状況であり、2月19日の日本経済新聞は、ISSCC60周年で曲がり角、と表現した。

大きな流れはセミコンポータルでも指摘したように(参考資料1,2,3)、最近の国際学会では企業からの発表件数が減り大学からの発表が増えている。これは研究開発を大学に依頼し、企業は製品開発に専念する、という傾向を示したものだろう。もう一つ重要なトレンドとして、企業が製品を発表する場では詳しい技術を明らかにしなくなったという傾向もある。学術的な色彩の強いISSCCやIEDMでは、アカデミックに捉えた技術そのものを発表せざるをえないため、企業風土にそぐわないことがある。このためインテルやアップル、フリースケール、テキサスインスツルメンツなどは独自の開発者会議といった名称の発表の場を自ら設け対外的にアピールしている。

重要なことだが、半導体大手の発表件数が減ったから、半導体はダメでバイオが良い、といった単純な構造ではない。半導体を握っていなければ今後の企業価値は上がらないことを認識することが本質だ。21日の日経産業新聞は、韓国の2強、サムスンとLGの事業を比較した記事を掲載したが、半導体を持つサムスンが飛躍し、半導体を持たないLGが出遅れたと述べている。LGは唯一、ハイニックスを現代との合弁で持っていたが、韓国の大手通信オペレータのSKテレコムに買われてしまった。両社のビジネス領域は、薄型テレビやスマホ、白物家電、エアコンと日本の民生メーカーとそっくりだ。

特にスマホではLGは、12年の第4四半期には世界出荷が860万台と過去最高を記録したが、これでもサムスンの1/7にすぎないと日経産業は指摘している。LGにとって、メモリ半導体を手放したのは1997年の通貨危機で政府の強制的な改革によるもの。だが、サムスンは今やメモリへの投資を抑え、ロジックファウンドリへの投資を活発にしている。ファウンドリの世界ランキングでも3位に躍り出た。スマホの心臓部となる同社のアプリケーションプロセッサは、自社のスマホに組み込むと共にアップルのA5、A6にも採用され、業績を伸ばした。LGのスマホ出遅れとスマホ用プロセッサを持っていないという弱点は、日本の携帯メーカーとそっくり。携帯機器側も半導体側もスマホ用アプリケーションプロセッサの重要性に気が付くのが遅れたといえよう。

2012年度の営業損益見込みを黒字から赤字に下方修正したルネサスエレクトロニクスは、社長交代の人事を発表した。これまでの赤尾泰社長が取締役に退き、鶴丸哲也取締役執行役員が社長に就任する。新任の社長と執行役員は全員、日立製作所と三菱電機からの陣容。19日の日経は、「革新機構などは9月までにルネサスを買収する予定。出資後に経営陣を刷新する方針で、鶴丸体制はそれまでの暫定的な経営陣となる可能性もある」と述べている。

参考資料
1. SSDMでの発表件数が意味するものは産学共同研究の着実な増加 (2012/08/31)
2. 続く鈍化傾向/ISSCC今昔 (2008/12/01)
3. 大学でも応用を見据えた研究が国際会議を牽引する時代に−A-SSCC2012から (2012/09/04)

(2013/02/25)

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