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富士通セミとパナとの統合新会社、TSMCとのファウンドリ事業が明らかに

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先週のビッグニュースは、富士通とパナソニックが共同で、「システムLSI事業の統合新会社設立に関する基本合意について」と題するニュースリリース(参考資料1)を発表したことだ。前回のニュース解説で紹介した、富士通とパナとの合弁会社のニュースはリークされたものだが、今回は両社が正式に表明したもの。

富士通は、2月7日、上記のニュースリリースとは別に「半導体事業の再編と方針について」と題したニュースリリースも発表している(参考資料2)。これによると、システムLSI (SoC)事業はパナソニックと共に事業統合し、ファブレスのシステムLSI統合新会社として設立する。富士通セミコンダクターの三重工場は台湾のTSMCを含む新ファウンドリ企業へ移管を検討する。これまでも、半導体の後工程部門である富士通インテグレーテッドマイクロテクノロジを、大分を本社とする後工程ファウンドリのジェイデバイスに売却することを決めている。富士通セミコンの岩手工場はデンソーへ売却した。

富士通は、2012年度の第3四半期決算において、半導体事業の構造改革に伴う事業構造改善費用として570億円を特別損失で計上したことをやはり2月7日に発表している。工場の譲渡損失には、譲渡した岩手工場と、後工程工場の操業保証や、後工程製造拠点の譲渡に伴う人員関連損失費用、減損損失などを含むという。工場を売却した譲渡益に関しては触れていない。

ファブレスとなるシステムLSIの統合新会社に日本政策投資銀行が出融資するよう、富士通が依頼している。新会社が手掛ける事業は、(1) 高性能サーバや、超高速ネットワークなどの基幹インフラを支える性能重視のチップ、(2) 次世代デジタルテレビや画像認識応用などのチップ、(3) ユビキタスネットワークを支えるモバイル・微弱無線などのコネクティビティ向けチップ、の三つ。コネクティビティ分野に関してはインフラ系のチップに注力するようだ。昨年秋に富士通とNTTドコモ、NEC、富士通セミコンダクターが設立したアクセスネットワークテクノロジは、携帯端末向けの通信モデムのチップ設計に注力している。

富士通がパナと組むメリットは何か。半導体業界での認識では、技術的・製品的なメリットはない。唯一、政府系金融機関からの出資・融資を見込めるという財務的なメリットだけである。日本の政府・霞が関は1企業のために汗を流さないことをモットーとしている。特定民間企業だけに出資したり優遇したりすることに対する批判を避けるためだ。海外政府の姿勢とは全く違う。パナソニックという別の企業と一緒だと、業界のため、という言い訳が立つ。ルネサスは元々、日立、NEC、三菱の3社連合だけに、政府系ファンドの産業革新機構が出資できた。

一方、富士通セミの三重工場はファウンドリ事業を目指しており、主な出資先をTSMCと発表した。富士通は40nmプロセスからTSMCと共同で開発してきた。このパートナーという意識を富士通が強く持っているのではないだろうか。富士通セミは自らのプロセス技術をTSMCと共同開発としながらもかなりの部分を提供したと言われているため、その恩義に期待しているようにとれる。

しかし、TSMCからの発表は今日現在まだないため、TSMCが三重工場を持つメリットは何か、今のところ推測するしかない。TSMC側からすると、今は20nmの技術開発に力点が移っている。すでに、20nmプロセスを利用するほぼ最初の顧客としてザイリンクスの名が上がっている。では、20nmプロセスで富士通とTSMCが共同開発するメリットは何か。TSMCは28nmプロセスからすでにゲートラストプロセスを確立しており、20nmへの移行に当たって壁は低いと見ているようだ。こうして考えてみると、TSMCにとってのメリットは、せいぜい日本市場をもっときめ細かくカバーできることかもしれない。もしそうなら、富士通セミは、設計の知識とスキルを持ったエンジニアを営業担当のFAE(フィールドアプリケーションエンジニア)として確保しておく必要がある。ファウンドリビジネスでは欠かせない存在となるからだ。

残念な話だが、ルネサスエレクトロニクスは2013年3月期の営業損益が従来の黒字から一転して260億円の赤字になると8日発表した。売り上げ見通しは前年比12.8%減の7700億円となる。これも従来予想から500億円引き下げた。最終損益は1760億円の赤字になる見込み。今年度前半は、任天堂のWii Uゲーム専用LSIの売り上げが好調で、今年度全体の見通しを営業黒字と見込んでいた(参考資料3)。しかし、第3四半期でWii Uが失速したことに伴い、その専用LSIも失速した。

元々、ルネサスは専用LSI(彼らはシステムLSIあるいはSoCと呼ぶ)部門を縮小する計画だったはず。それが、ゲーム機専用LSIがなまじっか売れていたため、事業再構築の手が緩んでいた。革新機構から出資の確約を得た後は、手元資金のメドが立ったため、なおさら、改革がなおざりにされていたようだ。現状は、赤尾泰社長退任が決まっているものの、革新機構の出資が最悪9月末まで遅れれば、物事を決める意思決定者不在の状態が続く、と8日の日本経済新聞は指摘している。

参考資料
1. システムLSI事業の統合新会社設立に関する基本合意について 富士通ニュースリリース (2013/02/07)
2. 半導体事業の再編と方針について 富士通ニュースリリース (2013/02/07)
3. ルネサスにようやく明るさ戻る、受注が着実に増加、年度営業損益は黒字へ (2012/08/03)

(2013/02/12)

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