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シャープ・クアルコム共同開発ディスプレイの裏側にあるもの

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シャープがクアルコムとディスプレイパネルを共同開発し、さらに最大100億円の出資を受けることで合意したと12月4日の日本経済新聞朝刊が報じた。同じ日にシャープはニュースリリースを流し、共同開発するのはMEMS技術を利用するディスプレイパネルであることを発表した。

自己資本比率が10%を割り込んだシャープにとってはのどから手が出るほど欲しい新しい資金である。シャープの株価が下がり続けているため、鴻海精密工業が当初の資金で購入する場合には大株主となってしまう。シャープは、この時期の出資には二の足を踏んでおり、鴻海はシャープの返事待ち状態となっているようだ。クアルコムも資本参加することで、鴻海比率が少し薄まるだろう。クアルコムと提携しても、鴻海はシャープとの資本提携には影響しないと述べた(6日の日経産業)。

また、シャープがクアルコムの出資を受け入れることに対して市場は歓迎しており、8日の日経によると、シャープの株価は前日比17円高(9%アップ)の216円になったという。約2ヵ月ぶりの200円台に回復した。

4日にシャープが発表したクアルコムとの資本提携とディスプレイ技術の共同開発に関して、その技術内容を考察してみよう。クアルコムは2011年11月にディスプレイ会社ピクストロニクス(Pixtronix)を買収した。クアルコムは2004年9月にもMirasol(ミラソル)ディスプレイを開発したIridigm Display社を買収しており、ディスプレイ会社の買収に関して積極的だ。今年のCES(Consumer Electronics Show)では、蝶の羽のような光の反射を利用してきれいな画面を表示するミラソルディスプレイを使ったスマートフォンが発表されている(参考資料1)。

今回のシャープと共同開発するディスプレイは液晶ではない。ピクストロニクスが開発したディスプレイ技術は、MEMSを利用してシャッターを開閉するもの。これまでの液晶ディスプレイの場合は、液晶そのものが部分的にシャッターの役割を果たすが、完全なシャッターにするために偏光板を必要とする。色はRGBのカラーフィルタを利用する。これに対して、ピクストロニクスの技術はMEMSの機械的な動きでシャッターとするため、偏光板は要らない。また色はRGBのLEDバックライトを使うためカラーフィルタも必要ない(図1)。これら2枚の透明材料を通さないため画面は明るくなる。逆にこれまでの明るさを維持するなら消費電力を下げることができる。

このディスプレイは、時分割で色を表示し、中間調はTFTトランジスタに流す電流の大きさで調整する。MEMSスイッチの応答速度が十分速いためこれが可能、とFPD International 2012の展示会で同社の説明員は述べた。


図1 ピクストロニクスのPerfectLight技術 左はパネル構造、右はシャッター1個分の構造 出典:Pixtronix

図1 ピクストロニクスのPerfectLight技術 左はパネル構造、右はシャッター1個分の構造 出典:Pixtronix


ではMEMSシャッターを開閉させるトランジスタをどうするか。ここにシャープの酸化物半導体IZGO材料を使おうという訳だ。IGZOはアモルファスシリコンと比べて、電子移動度が数10倍高く、トランジスタの駆動能力が高いため、MOSトランジスタのW/L(チャンネル幅/チャンネル長)のチャンネル幅を短くしても電流をとれる。すなわちトランジスタ面積が小さくても駆動力を発揮するという特長がある。ただし、4元系の元素を大面積に均一に作製する生産技術を構築することはそう簡単ではない。それぞれ特性が違う4つの元素を使って均一性・再現性・量産性に加え、経時変化しない信頼性を確保することが最大の難点だ。クアルコムはファブレス半導体であるため、こういった均一性などの製造上の問題を自社で解決する能力がない。このため、シャープ自身がこの問題をクリアしなければならない。

また、シャープのIZGO技術は、半導体エネルギー研究所(代表取締役社長:山崎舜平氏)と共同開発したものとしている。特許を売り物とする半導体エネルギー研究所は、リバースエンジニアリングのための製造装置を揃えていると言われており、IGZO特許も半エネ研が抑えているという見方もある。

参考資料
1. 「技術で何ができるかが重要」というジョブズ氏の言葉を反映したクアルコム (2012/01/27)

(2012/12/10)

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