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ルネサスへ革新機構と顧客が2000億円出資、など盛りだくさん

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先週、土曜日の日本経済新聞1面トップに「ルネサス出資2000億円に 日本連合、日産・キヤノンも来月合意目指す」という記事が載った。翌日曜の日経には、「日の丸半導体、背水の陣 ルネサス再建始動へ」と続いた。

ルネサスが経営不振に陥っている、という見方は厳密にいえば間違いである。ルネサスエレクトロニクスは、ルネサステクノロジとNECエレクトロニクスが合併する前から人員が多すぎると業界筋は見ていた。すでに赤字体質のまま、親会社と霞が関によって合併させられたのである。本来なら、その前からリストラすべきだったとルネサスウォッチャーは見ている。新生ルネサスになってから経営不振に陥ったわけではない。

ルネサスに出資するのは結局、産業革新機構という日本政府系ファンドのようだ。ルネサスの顧客からも出資を要請し、革新機構が1500億円、顧客は500億円弱を出資する。ルネサスにはリストラを強要し、国内19工場を半減し、システムLSI部門を切り離して富士通、パナソニックと一緒にするという。このニュースは、政府系ファンドや日本企業だけの話であり、海外企業が参加する訳ではないこともあり、ルネサス自身の否定ニュースも出ていないことから、2000億円の出資という話は真実味がある。

ルネサスのリストラは遅まきながら評価できるが、システムLSIの3社合併は何の意味があるのだろうか。システムLSIは世界では完全なソリューションビジネスとなり、3社連合はそのビジネスモデルからほど遠い。何の成長路線を示すこともなく3社連合を図るというのは、これまでの失敗を何も反省していないことになる。弱者同士をくっつけてビジネスがどうして強くなるのか、その狙いが知りたいのは私だけではないはずだ。

これはルネサスだけの問題ではない。ファイナンシャル部門も同じだ。米系ファンドKKRがルネサスに提案して初めて、革新機構がルネサス支援を提案した。まるで後出しじゃんけんだ。自分でコトの重要さを評価できないのである。国内ファンドには失敗した時には税金を投入できるという仕組みになっているため、彼らには責任の所在は希薄だ。結局、ファイナンス、モノづくり、半導体産業、どの分野においても根本的な解決が何も示されないまま、資本注入が行われる。結果はポジティブになることを望むが、道筋がいまだに示されないため極めて難しいと言わざるを得ない。

ソフトバンクが米国の通信オペレータ第3位のスプリント・ネクステルを買収し、さらに5位のメトロPCSコミュニケーションズの買収交渉に入っていることが世界中のメディアに大々的に報じられた。ソフトバンクの孫正義社長は常に攻め続けるビジネスマンだ。この円高と低金利の状況をうまく利用することで次の成長に結びつけようとする。さらに国内市場だけでは成長に限界があることも知っているからこそ、攻めの買収となる。今の日本のモノづくり産業に必要なことは、こういった攻めの経営である。14日の日経の記事中、「リスクを採るのが起業家」とツイッターで述べているが、起業家だけではなく、大企業でさえも経営者がリスクをとることが不可欠で海外のビジネスルールでは当たり前だ。日本では大きな赤字を生みだした大企業の社長が会長に収まるという「仲良しクラブ」で経営している以上、攻めの期待は全くできない。

もう一つ重要なトレンドが先週、見出されている。パソコンの出荷台数がIDCの調べ、ガートナーのそれと共に、2012年第3四半期に-8〜9%という状況に陥っている(参考資料1)。これは10月11日付けの日経夕刊が報じたもの。12日の日経はさらにIHSアイサプライが2012年全体では-1.2%のパソコン出荷台数になるという見通しも掲載した。パソコン台数の減少傾向から、出荷金額はさらに落ち込み、DRAMやフラッシュなどの価格値下がりに結びつく。半導体にとって携帯デバイスはけん引力ではあるが、パソコン産業の力も大きい。要注意信号と見るべきだろう。

最後に、iPS細胞を使った臨床治療について、疑わしい論文を公表した森口尚史氏が読売新聞をはじめいくつかのメディアにリークし、特に読売が1面トップで掲載したことについてさまざまな意見が交わされた。この話は、半導体分野とは直接関係しないが、報道に惑わされてはいけないという、良い事例になった。新聞報道を100%うのみにしてはならない、ということだ。必ず裏付けを採って、確認してから掲載すべきであることはメディアとしての基本中の基本。読売新聞ともあろう一流のメディアがこういった過ちを犯した。このことを同じメディアの一員として、肝に命じておきたい。同時に、半導体産業の報道にしても「すっぱ抜き」を第一優先している新聞には、「ガセネタ」が必ず付きものであることも知っていただきたい。

参考資料
1. パソコン出荷台数から見えるIT産業の陰り、半導体は要注意 (2012/10/15)

(2012/10/15)

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