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巨額の投資リスクを回避するためサプライヤとカスタマが共同開発する時代へ

8月9日の日経産業新聞は、ニコンの450mmウェーハ対応の露光装置の開発にインテルが数百億円を負担することに両者合意した、と報じた。半導体製造装置は巨額になると共にその開発コストも上がっていく。カスタマ(半導体メーカー)にも開発費を負担してもらい、その見返りとして優先的に装置を出荷する。

ニコンはこれまでもインテルに露光装置を導入してきた。製造装置のサプライヤ側から見ると、開発コストをユーザーに一部負担してもらうとリスクを削減できる。ニコンがインテルとの開発コストの分担を公表する1カ月前に、リソグラフィメーカー第1位のASMLが半導体メーカーに開発費を負担してもらうというプログラムを提案していた(参考資料1)。

ASMLは株式の25%を負担してもらうための増資を発表し、さらに希釈化に対して補償するプログラムも7月に発表していた。インテルが最初にASMLの提案に賛同し、25%の内の15%を購入することを決めた。8月に入り、ASMLの共同開発プログラムにTSMCも参加する旨を発表した。TSMCは残りの株式10%の内の5%を出資する。TSMCは、ASMLの持つEUV技術の開発と450mmのリソグラフィ装置の開発の二つのプロジェクトに関してASMLと契約する。残りの5%はサムスンか東芝か、ということになるが、9日の日経産業によると東芝は静観とあるため、サムスンがとることになろう。

開発費負担が重すぎる時代になってくると、サプライヤとカスタマとが共同で開発し、リスクを下げようという方向は意味がある。サプライヤだけで全てを開発するにはあまりにもリスクが大きい。シャープが堺コンビナートに液晶と太陽電池パネルの工場を総額1兆円にかけて着工するというニュースが流れた時、IBMやインテルは唖然として見ていた。「うちではこれほど巨額な投資の予算はとても認められない」という両社の声を耳にした。1000億円を超える投資額は企業そのものを揺るがしかねない。このため経営トップの適切な判断が求められる。

開発費が1000億円を超えて、サプライヤとカスタマがコラボレーションするようになると、共にWin-Winの関係が強くなる。サプライヤのリスクヘッジは言うまでもないが、カスタマにとっても製品を最優先で納入してもらえるというメリットがある。

こういった共同開発(コラボレーション)手法は、半導体製造装置メーカーと半導体メーカーとの関係にとどまらない。サプライヤである半導体メーカーと電子機器メーカーのカスタマとのコラボレーションもおおいに意味がある。エルピーダメモリもかつてこの手法を利用した。DRAM開発費をカスタマからも負担してもらった。カスタマは量産立ち上がりにおける数量の少ない時期でさえもDRAMを最優先で納入してもらえるため、競争相手に先んじてパソコンやスマートフォンなどの製品を出すことができる。

今回のニコンの動きを見ていると、やや気になることもある。それは、インテルとの共同開発テーマが450mm対応の露光装置だけにとどまっている点だ。EUVに関してはどことも共同で開発しない。これに対して、ASMLはインテルおよびTSMCと、450mmに加えEUVの二つの技術を共同開発する。将来のリソグラフィ技術でASMLに差を広げられないか、という懸念がありそうだ。

一方、インテル側から見ると、ASMLだけに頼ることは非常に危険だ。複数購買の原則は、万が一の不慮に備えるリスクヘッジである。たとえ450mm用のリソグラフィ装置でASMLが遅れたとしてもニコンの装置を使うことができる。ただし、EUVがもし成功し、ダブルパターニング等が消え去るようになると、ニコンの運命は危うい。今の所はEUVの実現の可能性が低く、ダブル・トリプルパターニングが有力視されているが、技術の発展は誰にも予測できない。

もう一つ、直近の景気動向に関して、8月10日に発表されたTSMCの数字(参考資料2)を見ると、本来夏枯れの様相を示す7月の連結売り上げが前月比11.7%増で前年同月比37%増の485億2500万台湾元(16億米ドル)、1〜7月の累積売り上げは前年同期比12.2%増の2820億9400万台湾元(94億1263万米ドル)になった。TSMCの売り上げは世界のファブレスおよびIDMの半導体売上を反映している。7月単独と1〜7月累積の売り上げの伸びを見る限り、世界の半導体産業は不調を脱出し好調に推移し始めたといえそうだ。

参考資料
1. ASML、EUV開発のリスク分散を狙い、インテル等と共同開発プログラムを提案 (2012/07/11)
2. TSMC July 2012 Sales Report (2012/08/10)

(2012/08/13)
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