セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

ルネサス決算報告記事の「切り口」が一般と専門メディアで大きく分かれる

|

ロンドンオリンピックの女子バドミントンダブルスで準優勝した藤井瑞希・垣岩令佳組の所属チームとして知名度が上がった、ルネサスエレクトロニクス。その決算発表が先週あった。この決算発表において、新聞各紙や専門サイトでの採り上げ方が大きく違うことがよくわかった。記事のタイトルが大きく分かれたのはなぜか。

一口でいえば、専門メディアは肯定的だったのに対して一般紙は否定的、であった。EE TimesとEDN Japanを持つ@IT Monoistは「ルネサスが収益基盤強化策を発表、2014年度の営業利益率は10%以上に」(http://eetimes.jp/ee/articles/1208/02/news105.html)と表現した。Tech-On!は「ルネサス、2012年度下期に465億円の黒字へ、『鶴岡300mm工場は1年をメドに譲渡検討』」と題した。マイナビニュースは「通期では210億円の黒字化を目指す − ルネサスが13年3月期第1半期決算を発表」とした。

こういった専門メディアに対して、日本経済新聞は「ルネサス、最終赤字1500億円、13年3月期見通し」、読売新聞は「ルネサスへ10月支援」、毎日新聞は「ルネサス:山口の2工場を閉鎖 再建計画」、朝日新聞は「ルネサス、1年以内に5工場売却−当初計画を2年前倒し」とした。

ルネサスの動向をビジネス面だけではなく製品や技術面からもずっと追いかけている専門メディアにとって今回の発表は、ようやく黒字化のメドが出てきたことが最大のニュースだった。これに対して、一般紙は赤字、工場売却をタイトルに選んだ。一般大衆紙からみて、半導体産業はエルピーダの破綻に続き、ルネサスも破綻するのではないかと邪推する論調の記事が出ていることからも、これに続けというようなトーンが尾を引いているようだ。

ルネサスに親会社3社と金融界がリストラ費用のために出資することは、これまでも伝えられていたことであり、特別損失を計上すれば赤字になることは発表前からもわかっていた。今回の、ルネサスは久しぶりに営業損益において黒字化のメドを付けたことを述べた(参考資料1)。工場売却、人員削減などに要する費用を計上するために資金提供を受け、今年度にこのリストラ費用を特別損失として計上することで次年度からは赤字部分を切り離せるため、経営をやっと再スタートできるようになる。ルネサスをずっと追いかけている専門メディアはこのことを知っているからこそ、前向きのタイトルを付けたのである。

もう一つ、見逃せないニュースとして、8月1日の日経に掲載された記事だが、富士通とNTTドコモ、NECと富士通セミコンダクターが合弁で、通信モデム用の半導体を設計する会社「アクセスネットワークテクノロジ」を設立することで合意、提携した。スマートフォンや携帯電話向けの通信モデムを設計する。

LTE時代となるともはや専用のハードワイヤード半導体チップはビジネス上難しい。グローバルにチップを販売するためには、各国・各通信業者(キャリヤ)ごとに周波数やモデム方式が異なるためである。基本となる半導体プラットフォームを作り、プログラムなどで簡単に仕様を変えることがその目的となる。OFDMデジタル変調を利用するLTEは、RF 周波数も含め、約40種類もの仕様が世界各地にある。しかもLTEではローミング機能はマストである。

そこで、何らかのプログラム方式による半導体チップをプラットフォームとする開発手法が求められる。これまで、ソフトウエア無線(SDR: software defined radio)のようにソフトウエアの変更だけで通信モデムを各地に合わせて切り替えられる方式がある。また、専用プロセッサにして、モデムのいくつかをプログラムで変えられる方式もある。いずれも日本があまり得意ではない分野だけにコンソーシアム的な組織を求めたのであろう。

2011年12月にはNTTドコモと富士通、NEC、パナソニック、サムスンの5社が設立する計画を発表したが、特許関係で折り合いがつかず合弁は解消となった。今回は、参加企業は減らしたことになる。ただし、NECはグループ企業としてルネサスモバイルを持っている。ルネサスモバイルは通信用モデムを設計する会社である。なぜ新会社にNECも参加するのか、広報室に問い合わせたが、これまでの開発したノウハウを有効活用したい、開発チームを複数持っておきたい、とだけ答えた。NECは財務的には厳しいはずだが、今回の出資額は資本金1億円のうちの17.8%だけであるため、問題は少ないのかもしれない。

参考資料
1. ルネサスにようやく明るさ戻る、受注が着実に増加、年度営業損益は黒字へ (2012/08/03)

(2012/08/06)

月別アーカイブ