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富士通が三重工場をTSMCへ売却する話はどこから流れたか

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先週末、富士通が三重工場を台湾のファウンドリTSMCに売却する方向で交渉を始めたというニュースが日本経済新聞のトップを飾った。富士通が三重工場を売却するという話は以前からもあった。これまで提携交渉話はまとまるまでは完全部外秘だった。途中で漏れると交渉相手の信頼を裏切ることになり破談に至るからだ。なぜ最近はこうも漏れるのか。

この話は産業界の常識で考えると、両当事者から漏れたとは考えにくい。富士通もTSMCも売却をまとめたいと本気で考えているのなら、交渉成立までは決して外部へは漏らさないだろう。だとすればやはり、霞が関か、ということになる。かつて、グローバルファウンドリーズがエルピーダの広島工場を購入するという噂話が業界をひそかに駆け巡ったが、数ヶ月たって新聞に出た途端に破談となった。最近ではルネサスエレクトロニクスの鶴岡工場をTSMCが買うのではないか、という憶測記事が流れたが、そのあとTSMCはこの報道をきっぱりと否定している。

今回の交渉話がすでに公になっていることをもしTSMCが聞き付けたら、否定するに違いない。TSMCから見ると富士通は信用できない会社と映るからだ。秘密交渉を進めている最中に、話が漏れるということは決してあってはならない。セミコンポータルにも、噂話や生の情報が入ってくることがある。しかし、そのような生の話は、たとえ裏がとれても、すぐには書かず適切なタイミングまで待つことがある。特に交渉事は、人命に係わる誘拐報道をマスコミが自制する状況に似ている。

今回の報道では、TSMCからみた三重工場購入のメリットは何か、を考えてみればよい。結論は、ない、である。TSMCは新竹サイエンスパークを手始めに、台南、そして台中にも月産10万枚を超える「メガファブ」を構築してきた(参考資料1)。それも28nm、そして開発中の22nmといった最先端工場に投資する。TSMCのメガファブから見ると小さな三重工場、それも65nmまでしか手掛けていない工場は魅力的に映るだろうか。今年の4月にTSMCの会長兼CEOのモーリス・チャン氏は「台湾に投資を続ける」と述べたばかりだ。半導体産業はウェーハ1枚処理する場合でも20枚処理する場合でも手間はさほど変わらないという産業である。量産レベルが大きければ大きいほど、低コスト化できるというメリットは大きい。

さらに台湾には、ウェーハ処理終了後、テストとパッケージを専門に請け負う業者が大勢いる。どのようなパッケージにも半導体チップを組み込めるエコシステムが完成している。TSMCにとって台湾は場所的に有利だ。TSMCにとってエコシステムを利用するための流通経費がかかる日本に工場を持つ意味はあるだろうか。仮に、TSMCが三重工場を買うとするなら、不便さを承知の上でどれだけ安く買いたたけるか、ということしかないだろう。

各社の4〜6月期決算発表も相次いだ。半導体検査装置のアドバンテストは4~6月期の連結決算発表と同時に4〜9月期の見通しも発表した。年度上半期の売上は前年同期比12~19%増の720~770億円、営業利益は30~60億円になる見通しとしている。前年同期は赤字だった。今回の黒字化には、システムLSI検査装置のベリジーを買収し、メモリテスタ一辺倒から脱却したことが寄与した。特にスマートフォン向けの半導体が好調で、受注額は462億円と20%増加し、減速感は感じていないという。

製造装置の東京エレクトロンはNANDフラッシュ向けの低迷により受注が減速、減収減益となった。連結営業利益は90億円前後となったが、東京国税局から移転価格税制により143億円を申告漏れとみなされたため、24億円を税金費用として計上した。このため純利益は50億円強にとどまったもようという。

半導体はスマホなど成長分野を狙えば業績は伸びるが、ディスプレイは相変わらず不調だ。シャープは4~6月期に連結最終損益1000億円の赤字を計上、数千人規模の早期退職者を募集することになった。韓国のLGディスプレイは同期の連結営業損益が255億ウォン(17億円)の赤字となった。赤字幅は減少したが営業損失は7四半期連続だという。

半導体の新しい応用分野として、ITで植物工場の効率を上げようという動きがある。富士通や富士電機、古河電池など14社が植物工場のIT化を促進するための組織「スマートアグリコンソーシアム」を発足させた(25日の日経)。センサネットワークを配置し、センサからのデータフォーマットや通信方式などを標準化するようだ。NECや日立製作所もセンサネットワークを手掛けており、農業のIT化を進めているが、共通仕様を標準化しようという動きにはつながっていない。IT化を低コストで実現するためには共通な部品やソフト、フォーマットは欠かせない。そのための仕様作りに半導体メーカーも係わるべきだろう。はじめから係わっていかなければ、いつまでも部品屋から脱出できない。

参考資料
1. ファウンドリビジネスが再び活発、TSMCが新棟建設、インテルは3社顧客獲得 (2012/04/10)

(2012/07/30)

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