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ルネサスエレの持つ潜在力に期待する

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ここ数週間、ルネサスエレクトロニクスのリストラ費用1000億円を捻出するための交渉が日本経済新聞などメディアで伝えられていたが、NEC、日立製作所、三菱電機の3社からの支援500億円と銀行からの支援500億円で賄うことが決まった。ルネサスはさらにファンドである米KKRとも500億円規模の第3者割当増資に関する交渉に入ると23日の日経が報じた。

1000億円のリストラ費用によって、連結含め合計従業員4万4000人の中から、1万数1000人を早期退職プログラムの対象にし減らしていく。工場閉鎖や売却と共に人件費の削減につなげる。この1000億円には、今後成長していくためのコストは含まれないと見られている。

もともと、ルネサスエレクトロニクスは、NECエレクトロニクスと、前身のルネサステクノロジとの合併である。ルネサステクノロジは日立製作所と三菱電機のDRAMやハイパワー半導体を除く半導体部門が一緒になった企業だ。「世界の半導体ビジネスで、大手同士が合併した企業がうまく行った例は唯一、STマイクロエレクトロニクスだった」と英国市場調査会社のフューチャーホライゾン(Future Horizon)のCEOであるMalcom Penn氏は語る。「そのSTも最近はうまくいかなくなった」。

半導体企業大手の合併でも似たような製品を作ってきた同士の合併は、世界には存在しない。半導体産業は市場に敏感で、素早い応答が必要な産業に変貌しているからだ。大手同士でディシジョンが早まったという例は聞いたことがない。加えて、垂直統合から水平分業への動きにより、ベストな製品を安く早く作ることが勝ちパターンになっている。グローバル情報に鈍感な役所と公共事業型の企業はこのことを知らなかった。日立、三菱、東芝は電力会社を頂点とする公共事業を主体としてきており、NEC、富士通は通信業者(オペレータ、キャリヤともいう)を頂点とした公共事業を主体としてきた。半導体事業やIT事業は「傍流」だった。

半導体、ITあるいはICTは経営スピードが優先される、非公共事業型産業である。しかも、競争相手は外国企業であり、国内企業だけを見ていては世界から取り残されてしまう。いかに海外市場の動きをみて産業のメガトレンドを読むか、ここがもっとも重要なカギを握る。競争相手に先んじて市場に合わせることで、世界の半導体企業は大きく成長している。クアルコムしかり、ブロードコムしかり、TSMCしかり、である。

親会社と霞が関が決めた公共事業型企業同士の結婚生活から、どのようにして転換を図るか。ルネサス復活のカギはこの点に尽きる。いかにして経営ディシジョンを早めるか、いかに早くメガトレンドを捕まえるか、いかに早く競争相手の情報を集めるか、である。国内他社の顔色をうかがってきた旧来の経営手法から早く脱却してほしい。

技術的にはルネサスは成長できる製品を持っていると共に、開発もしている。市場シェア世界一と言われる「マイコン」だけではない。アナログインターフェースを充実させた「スマートアナログ」、海外市場を狙ったルネサスモバイルのモデムチップセット、中小型のパワーエレクトロニクス向けのパワーMOSFETや高耐圧製品などの中パワー製品などは今後の成長が期待できる。

先週、ルネサスは米Analog Devices社と組んで、アナログ技術者向けのウェブサイト「ソリューション・エッジ」(参考資料1)を開設した。21日の日経産業新聞が報じているが、データコンバータやセンサなどのアナログ製品とDSPを得意とするAnalog Devicesと、インターフェースや通信用モデム、マイコンなどを得意とするルネサスが手を組むことで、製品ポートフォリオが広がることになり、ユーザにとって製品の選択肢が広がる。カスタマイズするための開発ツールも揃えることで、マイコンに馴染みの薄かった電力会社や電気器具会社を多数顧客に取り込むことができる。

ルネサスモバイルは、世界中のLTEやその先のモデムを開発する。LTEは国ごとに周波数帯をはじめとする仕様が異なるだけではなく、ローミングが義務付けられている。ローミングサービスを提供するためには2国間交渉が欠かせない。これまでの2G、3Gのドコモ仕様とは違って、LTEモデム開発には外国企業と一緒に開発することが求められる。この点、ノキアとの合弁であるルネサスモバイルに期待したい。

さらに、ルネサスはTSMCとコラボすることを5月末に発表した(参考資料2)。TSMCのエコシステム利用との交換条件が認められれば、フラッシュマイコンの世界進出が可能になる。


参考資料
1. Solution-Edgeホームページ
2. ルネサス、フラッシュマイコンのグローバル成長戦略でTSMCと提携 (2012/05/29)

(2012/06/25)

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