ジョブズ氏亡き後のカリスマリーダーは誰か、がCESでの業界人最大の関心事
先週は、ずっとCES(Consumer Electronics Show)に出ていたため、Breaking Newsに掲載されているCESニュースを中心に、新聞報道と実際のCES取材を簡単に比較し、そのあと最大のトピックス、すなわち次世代のカリスマリーダーについて触れる。世界中のメディアの記者と議論したのがこの話題であった。
図 CESの基調講演で語るクアルコムのポール・ジェイコブズ氏
新聞では日本企業の記事を数多く採り上げている。日経や日経産業は、相変わらず大画面と解像度の高さを誇るような、4K2Kや8K4Kの液晶フラットテレビを見せていたが、シャープの8KテレビはCEATECですでに発表している。ソニーがクリスタルLEDテレビと称する製品は、大型の屋外LEDディスプレイと同じようにLEDチップを画素ごとに敷き詰めたテレビである。明るいものの消費電力は下げられるというソニーのコメントを日経はのせているが消費電力は大きいはず。仮に1チップ30mA流すとするなら順電圧が3Vだから90mWとなり、2K1Kのハイビジョンでは全部明るくすると最大2M画素だから、200万倍の180kWにもなる。画面全体に渡って全面オンすることはないから、その1/10だとしても18kWという家電製品としては受け入れられない製品となる。画素数を1Kとしてもその1/4の電力として4.5kWもある。力まかせの製品という意見もあった。ニコンや富士フィルムのCMOSイメジャーによる一眼レフタイプの大型ミラーレスデジカメの報道もあったが、現地では話題にさえ上らなかった。これも力まかせに近い製品である。
サムスンやLGは高解像度化や大型化ではなく、スマートテレビ一色となっている。サムスンはスマートテレビというコンセプトを数年前に発表していたが、その内容を具体的に示したのは今回が初めてだった。スマートテレビはスマホのコンテンツやインターネットのコンテンツをテレビで見るというものだけではない。むしろテレビと人間の双方向動作が基本概念である。これまでは人間がテレビを見る、聴く、操作するという立場であったが、スマートテレビはテレビ側が人間を見る、聴く、する、という動作を行う(参考資料1)。すなわちUI(ユーザーインターフェース)が大きく変わることになる。スマホはリモコン用のソフトをインストールすれば、汎用リモコンとしても動作させることができるようになり、もはやテレビの専用リモコンは不要になる。セミコンポータルはそのUIについていち早く伝えたが、新聞では余り採り上げられていなかった。
なぜか。日本企業がCES開催前にプレスリリースで発表する製品を予め知らせていたからである。すでに入手出来ていたプレスリリースを元に記事を構成し、現地でそれを肉付けするという作業を行っていたために、日本企業のニュースを多く採り上げることができた。
CESに行ってみて拾い上げられたニュースとして、これまでパソコンに力を入れてきたインテルやレノボがスマートフォンにも力を入れたという記事がある。カーエレクトロニクスや、スマートハウスなどを拾い上げたニュースもある。LGはその一つの企業であり、グーグルやマイクロソフト、nVidiaなどもクルマに注力している。これまで日本と欧州の半導体メーカーがカーエレクトロニクスのトップを行ってきたが、米国メーカーもその市場の大きさに気がついた。日本のメーカーはさらにカーエレ製品を充実させる必要があろう。
ただし、業界人最大の関心事は実は、「スティーブ・ジョブズ亡きあとのカリスマリーダーは誰か」であった。サムスンのプレゼンでは、民生製品部門トップの韓国人経営陣に続き、北米の部門別担当トップがそれぞれの担当する製品やサービス、コンセプトについてプレゼンした。どの方も素晴らしいプレゼンではあったが、抜群ではなかった。インテルのポール・オッテリーニ氏、マイクロソフトのスティーブ・バルマー氏も基調講演に上ったが、カリスマリーダーには遠い。すでに数年前からも何度も基調講演を行ってきたが、そのような呼ばれ方はしてこなかったからだ。
今回の基調講演の中で、その候補者はいた。クアルコムのCEO、ポール・ジェイコブズ氏だ(図)。ジーンズにブレザー姿で登場した同氏は、クアルコムの共同創業者の一人であるアーウィン・ジェイコブズ氏の子息で、2代目のCEOである。2009年3月に就任した当時はまだプレゼンが魅力的ではなく、さほど注目されなかった。しかし、それまでに同社が買収した有力企業を次々に飛躍させ、画期的な技術をクアルコムに加えることで技術的に強化してきた。ファブレス半導体なのに今や、IDM並みの売り上げを持つ企業へと成長、ルネサス並みの売り上げ規模に迫る勢いだ。最近ではWi-FiのトップメーカーのAtheros社も買収、さらに未来へ向けコネクティビティの磐石の態勢を築いている。
このCESでクアルコムは、Windows-8搭載デバイスに使うSnapdragon S4チップを供給すると発表しただけではなく、韓国のHanvon社が発売した電子ブックに、クアルコムの反射型のディスプレイのmirasolを搭載した。さらに米国の子供教育番組のセサミストリートのプロデューサであるセサミワークショップと共同で、AR(拡張現実)ツールも開発発表している。家庭向けの家電製品にWi-Fi機能や電力線通信などのコネクティビティ機能を搭載した技術や、ペットの首輪に着ける通信モジュールによるペットの管理など、発表した技術や製品の数は10数点もある。CESという民生機器のショーで通信用ファブレス半導体メーカーがこれだけの新技術を見せたのである。
ポールのプレゼンの中では、自らのプレゼンだけではなく、協力パートナーにも発言の機会を与えてコラボの相手を称えている。クアルコムはヘルスケアや教育、環境などの分野にも未来を描いており、ポール・ジェイコブズ氏はそのビジョンを語るのにふさわしいリーダーという声が業界人から聞かれた。クアルコムは半導体テクノロジーをしっかり握った上で、未来を描ける企業であり、ポールはジョブズ氏同様、未来を語れる業界リーダーとして期待は大きいといえよう。
参考資料
1. CESに見る基調講演から−テレビやPCの将来を描いたサムスン、マイクロソフト (2012/01/10)