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KDDIのiPhone発売ニュースが業界を駆け巡る

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先週、KDDIがアップル社のiPhoneを出す、というニュースが業界を駆け巡った。元々は日経ビジネスが「KDDI、iPhone5参入の衝撃」と題してそのニュース(参考資料1)をいち早く伝えたことに呼応して、CNETなどが日経ビジネスの記事を伝えた(参考資料2)。セミコンポータルは、今年の1月にauブランドiPhoneの可能性を示唆していた(参考資料3)。

日本経済新聞は9月22日の夕刊において、KDDIがiPhoneを発売すると報じ、23日の朝刊においてもKDDIがiPhoneを販売することの影響について論じている。ソフトバンクが独占的にiPhoneを販売してきたが、KDDIが販売することでソフトバンクの独占体制が崩れることをどのメディアも議論している。また、料金設定についてもアンドロイド端末よりも安いことを指摘し、それをKDDIも守らされるのではないかと推測している。

セミコンポータルがなぜ1月の時点で、その可能性を指摘できたか。手前味噌になることを承知で敢えてその裏話を簡単にお伝えする。その根拠は、大きく分けて二つある。一つはアップルの世界戦略だ。もう一つはCDMA技術そのものだ。アップルはiPhoneを最初に出した時、1国1キャリヤ(通信業者)、それもナンバー1キャリヤに限定した。米国ではもちろんAT&Tである。日本国内第3位のソフトバンクがiPhoneを扱えるようになったことは世界的にはむしろ例外だった。アップルが通信業者を選ぶという下剋上的発想を、日本の古い体質のナンバー1通信キャリヤは受け入れなかった。日本の携帯電話産業は、キャリヤが仕様を決め、携帯電話メーカーがそれに応じた電話機を製造するという体制である。アップルの発想はその逆をいく。ソフトバンク社長の孫正義氏とアップルのSteve Jobs氏とはパソコン創生期からの仲であったことが日本で最初のキャリヤに選ばれた一因と考えるのは自然だろう。

では、KDDIはキャリヤとしての選択肢に入らなかったのか。当時はその可能性は全くなかった。技術方式が違うからだ。しかし、アンドロイド端末が世の中に普及するにつれ、アップルは戦略を見直さざるを得なくなった。まず英国ではVodafone以外のキャリヤにもiPhoneの販売を許可した。これにより、1国1キャリヤ戦略は崩れた。この話は、2010年の英国特集で打ち合わせを行う際に来日した英国政府の一人から聞いた。そして、米国では、AT&Tを抜いてトップになったキャリヤのベライゾン(Verizon)社がiPhoneを扱うと2011年の1月に伝えられた。

ベライゾンは米クアルコムのCDMA2000チップを組み込んだ通信方式のキャリヤであり、AT&TのW-CDMA方式とは異なる。W-CDMA方式は日本のNTTドコモとソフトバンクが採用しており、KDDIはCDMA2000方式を利用している。アップルはベライゾン向けにiPhoneのベースバンドチップをクアルコムのCDMA2000チップに変えた。アップルは米国でも2キャリヤにiPhoneを提供し、しかもCDMA2000方式にも対応することになった以上、KDDIも販売できる可能性が出てきた、という訳である。KDDIはおそらく、ベライゾンのニュースを聞いて、アップルと掛け合って交渉してきたのに違いない。交渉が成立し、ようやくiPhone販売のメドが立ったからこそ、今回、日経グループが特ダネを発信できたのであろう。

スマートフォンは回転に合わせて画像も見やすい位置に回転してくれたり、クルマのハンドル動作に対応してくれたり、いわゆる「楽しさ」を提供するが、これには回転を検知するジャイロセンサをMEMS技術で作ることが多い。スマホ以外にクルマにも多数使われてきた。車体のサスペンション制御やエアバッグ、姿勢制御などを担う。先週のニュースにあったように、米アナログ・デバイセズやスイスのSTマイクロエレクトロニクスなどの大手半導体IDMがMEMSセンサを積極的に設計製造販売しているのに対して、日本の大手半導体メーカーからMEMSセンサは出てこない。自動車用半導体といってもルネサスが強いのはマイコンだけ。加速度やジャイロスコープ、ヨーレートなどのセンサはMEMSで作る方式が今や一般的になっている。MEMSセンサは自動車やスマホ、タブレットといったこれから伸びる電子機器に欠かせなくなっている。いつMEMSチップは日本の大手から出てくるのだろうか。

最後に触れておきたい記事として、サムスン電子が20nm台の技術で2Gビットのパソコン用DDR3製品、エルピーダメモリが25nmの4Gビット製品をそれぞれ開発したという発表があった。ただし、両社は微妙に違うことを指摘しておく。サムスンは、最近の64ビットパソコンを念頭に入れた製品だろうが、エルピーダの製品はパソコンやサーバー、さらにはウルトラブックにも向けていると新聞では伝えられている。パソコンやサーバーは64ビットだから大容量DRAMの搭載は意味がある。しかし、ウルトラブックは32ビットシステムが主体であり、なぜ4Gビットの製品が必要なのか、わからない。2チップで1Gバイト、4チップで2GバイトのRAMが載るウルトラブックにはこれまでの30nm台の2GビットDRAMではなぜだめなのか、新聞情報からはわからない。もちろん、昔から言われているように微細化=チップ収量増加はある。しかしそれだけではなく、20nm台になると製造コストが飛躍的に高くなることも言われており、その最適値にあるのかどうか、に関しては触れられていない。MCPで縦にチップを積層する従来のRAMと比べたメリットがどれだけあるのだろうか。


参考資料
1. KDDI、「iPhone5」参入の衝撃 日経ビジネス (2011/09/22)
2. auから「iPhone」発売か−KDDIは「コメントできない」 CNET (2011/09/22)
3. auブランドのiPhoneが手に入る日が現実的になってきた (2011/01/14)

(2011/09/26)

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