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新分野の新商品、自社のリソースを生かした新ビジネス、新市場開拓に注目

ワイヤレス給電技術が最近、注目されているが、マイクロ波のパワーを直流に変換する半導体チップが先週、東京エレクトロンデバイスから発売された、というニュースを7月22日の日経産業新聞が採り上げた。電源も電池も使わずに電子回路を動かすという、エネルギーハーベスティング技術を応用した半導体チップである。

工場や倉庫など、ものづくりや物流の拠点でセンサーを張り巡らしたセンサーネットワークの電源としてもってこいの応用だ。電池だと、たとえ小電力回路でも数年に1回は交換しなければならないが、この方式は電池を使わないため完全にメンテナンスフリーである。電源となるのはマイクロ波のパワーである。

これまでワイヤレス給電といえば、磁気誘導方式か、磁気共鳴方式がメインであった。誘導方式はコイルとコイルを近付けて磁界を共有することで、交流を1次側から2次側へ伝えるトランスの原理そのものである。無線電波は数mmしか伝えられない。これに対して磁気共鳴は共鳴周波数を合わせる方式であるから、数〜数十cm程度と少しは離すことができるが、数メートルといった距離を電力源として飛ばすことは現実的ではない。

これに対して電力をマイクロ波伝送で送る技術が、原子力の置き換え技術として注目されている。太陽電池によって宇宙で発電し、その電力をマイクロ波で地球へ送信するという壮大な計画提案もある。位相を合わせ、ビーム整形してフェーズドアレイレーダーのように太陽光発電エネルギーを地球へ送りこむ訳だ。電気通信大学の本城和彦教授によれば、2km四方のソーラーパネルで500万kWの電力を発電し、5.8GHzのマイクロ波に載せて地球へ送りこむことが可能だという。先週22日に東京で開催されたAWRデザインフォーラムにおいて、そのように述べている。このマイクロ波の送信機アンプはGaN HEMTで構成する。ここにも半導体の新市場がある。

今回、東京エレクトロンデバイスが代理店を務める半導体メーカーは米国ペンシルベニア州を拠点とするPowercast社だ。同社はこれまでセンサーネットワーク用の電源として、米国政府の認可を得て915MHzの周波数を送受信するシステム用の半導体を設計していた。このほど日本市場に向け発売するチップは携帯電話からの微弱な電波を受け、直流に変換するICである。ただし、これだけでは電力として弱いため、Infinite Power Solutions社の固体リチウムイオン電池に電力を蓄えながら使う用途を想定している。

この半導体チップをこのコラムで採り上げたのは、新しい成長分野に向けた、これまでにない機能を集積したICだからである。エネルギーハーベスティングは自然界のエネルギーを利用する電源なし・電池なしで回路を動かす、新しい分野である。このような分野やスマートグリッドなどの分野はこれからの成長分野と考えられているため、誰よりも早く新製品を開発、市場へ送りこむという姿勢が日本企業には必要である。

先週、7月22日の日刊工業新聞は、機械部品である軸受部分にICタグを内蔵する技術をNTNが開発したというニュースを載せている。これは部品のロット番号や製造年月日、仕様などの情報をRFIDチップに記録し、部品のトレーサビリティに使おうという新しい応用である。機械部品は摩耗という宿命から逃れられない。このためいつ、どこで作った製品なのか、劣化した時のデータを抑えておく必要がある。ここにRFIDチップを応用する。

新しいビジネスでは、22日の日経に、ドコモやKDDIなどの通信業者が持つ基地局に温度や湿度、降雨計など気象観測機器を設置し、得られた気象データを通信業者が収集・加工・販売するというニュースが掲載された。既存の設備を利用した新しいビジネスだ。通信業者の基地局は全国各地にくまなく設置されており、気象データの観測にはもってこいだ。気象データは観測地点が多ければ多いほど信頼性が上がり、天気予報の当る確率は高くなる。各地に観測地点を新たに設けることはコスト、時間の点で難しくなりつつある。携帯電話はCellular Phoneと呼ばれるように細胞を敷き詰めたように通信範囲を構成してきた。このセル1個が基地局のカバー範囲であるから、気象観測、紫外線や花粉量、排ガス分布などの観測とデータ収集を通信業者が担うことは意味のあるビジネスと言えよう。

シリカ(ニ酸化ケイ素=SiO2)を手掛けてきた太平洋セメントがSiC結晶ビジネスに乗り出すことを、21日の日経産業が報じた。シリカと黒鉛を焼成してSiCの粉末の種結晶を作り、気相成長させていく。太平洋セメントは純度の高い種結晶を作るのが得意として、SiCインゴットメーカーに売り込むという。

先週はその他、DRAMビジネスが不調、NANDフラッシュビジネスが好調、という最近のトレンドをやはり確認することができた。両メモリを設計製造しているハイニックスはこのトレンド通りの業績、台湾のDRAMメーカーは赤字を続け、インテルはPC向けMPUの伸びが鈍化している。

新しい研究開発にサムスンは目を向けている。東京工業大学が開発した透明なアモルファス半導体を作る技術をサムスンはライセンス供与を受けたというニュースを21日の日経が紹介した。サムスンはディスプレイ用途に使うようだ。もちろん、大学の研究は2〜3年で商品化できるものではないが、いろいろな「技術の芽」を試しておくことは将来をにらんだ企業の務めであろう。

(2011/07/25)
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