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「水平分業が最大の価値を生む」、台湾の英雄スタン・シー氏のインタビュー

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6月5日の日本経済新聞朝刊に、今や世界第2位のパソコンメーカーとなった台湾エイサーグループの創業者であり現在は名誉会長でもあり、ベンチャーキャピタルiD SoftCapital(智融集団)の会長であるスタン・シー(Stan Shih:施振栄)氏とのインタビュー記事が掲載されていた。記事の見出しは「華人から見たIT産業 分業が最大価値を生む」である。

同氏は、「TSMCの創業者兼会長のモーリス・チャン氏と並んで台湾IT業界の英雄です」(台湾のあるITアナリスト)と台湾で言われているほどの人物だ。設計開発と営業マーケティングに価値があり、組立製造の価値が低いという、スマイリングカーブを提案した、その人である。


図 スタン・シーのスマイリングカーブ
図 スタン・シーのスマイリングカーブ


2000年ごろ、スタン・シー氏がエイサーグループの会長だった時代に東京に来られた時にインタビューしたことがある。当時でさえ、エイサーグループは2万人を擁する一大コンピュータ企業だった。当時から日本企業の意思決定の遅さと台湾企業の速さに関して疑問を感じていたので、このことについて聞いてみた。

同氏の答えは極めて単純だった。2万人もいるエイサーグループの意思決定を速くすることは、各社に分社化し責任を持たせること、だと述べた。すでに、エイサーグループは、エイサーペリフェラルズ、エイサーラボ(ALI)、エイサーなどに分社化されており、各社がそれぞれ予算権限と責任を持っている。「私は彼らからの報告を聞いているだけ」とシー氏は答えた。各社に分け、それぞれに責任と予算を持たせているから、それぞれの意思決定が速い。「私が口を出せば決定は遅くなる」と言わんばかりの回答だった。

同氏の考えは、昨日の日経新聞を見ると変わっていないことがよくわかる。この記事では、分社化ではないが、分業という言葉で表している。「私はいかなる企業にとっても、水平分業が最大の価値を生むと考える。自らが最も競争力を持つ分野に集中し、その他の部分は分業により他社の資源を活用する」と述べている。

日本国内大手の総合電機メーカーの苦戦に対しても「自社で事業を完結させる伝統的な考えを捨て、最も価値のある部分に資源を集中すべきだ。例えば音響や映像を制御するICでは、日本のメーカーに豊富なノウハウがある。パナソニックなどがIC事業を独立させ、外部に供給するようになれば、米インテルのパソコン用MPUのように世界の市場を掌握できる」と提案している。これに対して、パナソニックは三洋電機を買収した後パナソニックのブランドに統一しようとして垂直統合をますます強めているが、その目的は意思決定を速めるため、と述べている。筆者にはこの意味がわからない。垂直統合を強めることでなぜ意思決定が速まるのか。スタン・シー名誉会長の言っていることとは正反対である。

もう一つ、気にかかるニュースは、大日本印刷がMEMSの受託加工事業において300mmウェーハでシリコン貫通電極(TSV)技術を採用した生産に2014年にも乗り出す、という記事だ。6月3日の日刊工業新聞に掲載された、この記事はMEMSデバイスを製造する企業がTSV事業も始めるという動きを裏付けている。すでに米IMT(Innovative Micro Technology)社は、MEMSのファウンドリサービスと同時にTSVの加工サービスも手掛けている(参考資料1)。MEMSコンサルタント企業のAMFitzgerald&Associates社とMEMSファウンドリのSilex Microsystems社が共同でTSV加工を6インチウェーハで始める、と本日受け取ったニューズレター(参考資料2)で述べている。

MEMSもTSVもシリコンを深く真っすぐにエッチングするという意味では同じ技術である。プロセス技術の親和性は極めて近い。このため、CPUとメモリチップをTSVでつなぐもよし、MEMSチップとCMOSロジックやアナログチップをTSVでつなげるのもよし、いろいろなバリエーションがある。大日本は産業技術総合研究所のつくば東事業所でMEMSの産学連携プロジェクトに取り組む一方で、千葉県柏市の研究開発拠点でMEMSの受託加工事業を手掛けており、300mmウェーハを使ってTSVの加工に乗り出す。


参考資料
1. MEMS特集:ファウンドリ、ファブライトに集中して製品群を広げるIMT、VTI (2011/05/17)
2. New Services: MEMS Prototyping with TSV (2011/06)

(2011/06/06)

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