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震災からの復旧が進む半導体・材料産業、製造業全体でも7月までに9割復旧

先週は、東日本大震災からの復旧を急ぐ記事が多かった。半導体シリコンそのものの材料供給にサプライチェーン上最大の不安があったが、信越化学工業子会社の白河工場が4月20日に操業を一部再開し、6月末に震災前の生産水準に回復させるメドが付いた、と日本経済新聞が4月29日に報じた。

信越化学は6月末に白河工場の供給力が全面復旧すれば半導体生産に穴があくという事態にはならないと見ているという。同じく日経は、シリコンウェーハは白河工場以外で増産しており、震災の影響を最小限に抑えているという金川千尋会長の談話も載せている。今回の震災による生産設備の損害に対して、原状回復費用などで210億円の特別損失を計上した。

信越化学と並ぶシリコンウェーハ大手のSUMCOは、被災した米沢工場の修復作業が5月上旬に完了するメドが立ったため、5月中には震災前の水準まで生産規模を回復できる見通しである、と発表している。4月26日の日経産業新聞によると、九州などの工場でも代替生産を始めていることもその裏付けになっている。損害額は15億円程度に上る。

代替生産は、シリコン以外の半導体製造材料にも及んでいる。化学品メーカーのADEKAは半導体成膜材料の生産能力を韓国で増強すると、4月26日の日経産業が伝えている。ADEKAはHf酸化膜をはじめとするゲート絶縁膜をMOCVDなどで製作するための有機金属材料を鹿島工場で生産している。韓国での増産は、震災で損傷を受けた鹿島工場の代替生産であると同時に、顧客の近くに作れるというメリットもある。この材料で世界シェア6割強を持つと報じているため、Hf酸化膜がサムスンのDRAMに使われている可能性は高い。

半導体メーカーとして、最も大きな被害を受けたといわれるルネサスエレクトロニクスの那珂工場も復旧を急いでいる。4月27日にルネサスエレクトロニクスは報道陣に工場内部を公開し、マイコン(マイクロコントローラ)の生産ラインの一部が当初の発表(参考資料1)よりも1カ月早い6月15日に再開することが決まった、と日経新聞が4月28日に報じた。同社のマイコンをどこよりも早く入手したい顧客の自動車メーカーが送り込んだ応援部隊が1日2500人もいて、夜を徹しての復旧作業が続き、再開のメドが立った。6月に再開が決まった生産ラインは200mmウェーハライン。マイコンは200mmラインで作ることが多いため、まずはマイコン生産を急ぐという結果になった。震災により工場内通路の壁や天井が崩落、精密な製造装置が倒れていたという。

前回のニュース解説(参考資料2)で、オリジナルマイコンはセカンドソースの効かない製品であることを指摘したように、ユーザーである自動車メーカーにとっては代替マイコンを手に入れるよりも、応援部隊を送り込み復旧を急ぐ方が短期間で入手できると判断した。例えばトヨタ自動車の年間売上高は20兆円を超えるため、1年間で300日生産するとして1日の平均売り上げは670億円にもなる。生産しなければこれだけの損失を毎日計上することになる。

半導体の顧客である製造業全体では、被災した大手製造業の生産拠点70カ所のうち、6割がすでに復旧し、3割が7月までに生産を再開する見通しであることが、経済産業省の緊急調査でわかった。これは4月27日の日経が報じたもの。製造業合計では9割が7月に復旧する訳だが、供給網の完全な復旧は秋ごろにずれ込むと見ている。

なお、4月26日の日経産業で、携帯端末向けの半導体市場において米Nvidia社とルネサスなどが陣取り合戦を過熱させているという記事があったが、Nvidiaはアプリケーションプロセッサ、ルネサスはLTEモデムチップで頑張っているという記事であり、陣取り合戦という表現は当てはまらない。携帯端末メーカーは、LTEモデムにはルネサス、プロセッサにはNvidia製をそれぞれ使えるからだ。アプリケーションプロセッサはインテルからライセンス供与されたマーベル社、クアルコム社などが競合し、LTEモデムチップは英PicoChip社、インフィニオン社、クアルコム社、ブロードコム社などが競合する。


参考資料
1. 東日本大震災がIT産業に与える影響は巨大〜日本製材料が供給不足で作れない (2011/04/06)
2. 自動車メーカーの生産試運転開始と、長期的なスマートグリッドの推進 (2011/04/25)

(2011/05/02)
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