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東日本大震災がIT産業に与える影響は巨大〜日本製材料が供給不足で作れない

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「東日本大震災の甚大な被害はどこまで及ぶのかわからない。今は救命と応急手当的な復旧に全力を上げている段階だ。電力供給不安による工場の稼働率低下は避けられないだろう。それよりも何よりも恐ろしいのは半導体や液晶などの重要材料を供給している東北エリアの工場が大打撃を受けていることだ。このままでは、インテルもサムスンも東芝も思ったようには半導体が作れないという懸念が増大している」

経済産業省幹部が黒い泥水の津波が押し寄せる恐怖の映像を見ながら深くため息をついて語った言葉である。

一般報道でも、東北エリアにある半導体主力工場の被害状況は、かなりリポートされている。岩手東芝エレクトロニクス、富士通セミコンダクター岩手工場、秋田エルピーダメモリ、ルネサスエレクトロニクス那珂工場といった日本を代表する半導体工場が東北から北関東エリアに集中している。

被害状況についてはそれぞれのメーカーがアナウンスしているが、やはり一番大きな被害はルネサスが受けている。主力の那珂工場以外は、部分的に操業を再開したが、那珂工場はいまだに操業停止状態で、7月までは稼働できない模様だ。ルネサスは自動車メーカーにかなりのマイコンなどの半導体を供給しており、この手当がつかなければどうにもならないと悲鳴を上げる国内外のメーカーも多い。また、デジタルカメラ向けのシステムLSIについては、ルネサスが世界トップシェアを握っており、カメラメーカーの間にも不安が広がっている。

ところで、一般紙ではあまり報道されていないが、電子・電気産業を支える材料工場も大きな被害を受けている。周知のとおり、半導体の最も重要な基幹材料はシリコンウェーハであり、日本勢が圧倒的な世界シェアを握っている。あろうことか、そのトップメーカーである信越化学工業の主力工場である福島県白河工場がかなりの打撃を受けているというのだ。なにしろ、白河工場は世界のシリコンウェーハの約5分の1を作るという巨艦工場であり、この復興のめどが立たなければ世界の半導体メーカーに与える影響は大きい。

「今後はウェーハの取り合いが始まるだろう。思うとおりに半導体を作れないならば、パソコン、液晶テレビ、携帯電話の生産にも影響を与える。しかしながら、半導体は需給状況で決まるために、主要材料のシリコンウェーハも半導体チップもこの震災の影響で価格上昇していくことは間違いない。」(アイサプライジャパン 南川明副社長)

液晶分野においても深刻な材料不足がささやかれている。宮城県に拠点を持つ倉元製作所は、低温ポリシリコン液晶のITO成膜を手がけているが、これまた圧倒的な世界シェアを持っている。つまりは、倉元の操業停止により、スマートフォン、携帯電話、デジタルカメラなどモバイル向けの低温ポリシリ液晶の生産にめどが立たなくなくなるのは必定だ。

思えば、半導体材料の約50%、液晶材料の約60%は日本メーカーが生産している。世界の先端素材を握るニッポンの強さが、この未曾有の大震災発生により世界のIT産業に多くのマイナス影響を与えることになる、とは誰が考えたであろう。

産業タイムズ 取締役社長 泉谷 渉

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