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富士通研のワイヤレス給電報道についてメディア各紙の記事を総括する

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先週のビッグニュースは、管総理大臣の続投が決まったことだが、菅直人氏への期待はすでに述べた(関連資料1)。むしろ、富士通研究所の無線給電技術について報道した各メディアを比較してみたい。そして、注目すべきニュースとして、GEやフィリップスがヘルスケアエレクトロニクスに参入するという記事を採り上げる。

ニュースの読み方は、情報を収集する上でとても重要である。このために一つのテーマであえて、さまざまなメディアの採り上げ方を解説する。この場合、私(津田)もその場に行き、記者会見の一部始終を聞くと共に担当者にその場で技術的に納得できない点をお聞きした。メディア人としての見方も採り上げる。

富士通研究所は、9月13日に富士通本社において記者会見を開き、ワイヤレス充電技術についてデモンストレーションも含め、その技術を紹介した(関連資料2)。翌14日の新聞各紙と技術メディアのタイトルを以下に示す;

富士通研、ワイヤレス給電の高速解析・設計技術を発表―――電子ジャーナル

富士通研究所のワイヤレス給電システム向け解析技術、従来比で1/150の解析時間を実現――EDN Japan

富士通研がワイヤレス給電デバイスの新たな解析技術を開発,設計時間が1/150に――Tech-On

電源ケーブルいらずの携帯に一歩前進 ― 共鳴型ワイヤレス給電の新設計手法――EE Times Japan

富士通、携帯の無線充電、2012年に実用化、複数機器に同時給電も――日本経済
富士通、「無線給電」12年実用化、EVへの応用視野、まず携帯・ノートPC向け――日経産業
富士通研、モバイル機器向けワイヤレス給電技術を開発――日刊工業
富士通研、集中定数回路モデルでワイヤレス給電設計時間を1/150に短縮――セミコンポータル(関連資料3)

メディアは常に、「何がニュースか」という視点で記事として採り上げる。ニュースとしての価値を見いだせない話はまず採り上げない。それも価値(他の企業がやっていない、技術的・製品が優れているなど)がなければ、採り上げられない。それもメディアによっては対象とする読者をイメージした上で記事の視点を想定する。逆に価値のある発表を採り上げないメディアがあるとすれば、そのメディアは内容を理解できていないということになる。

今回の富士通研究所の発表は、何がニュースかという点ではややわかりにくかった。そこで、業界メディアと一般紙である日本経済新聞との見方が分かれたという訳だ。出席した富士通研究所の方は実用化時期を聞かれて、2012年を目指すと答えた。本来なら実用化するのは事業部であるから研究所が言うべきことではない。しかし、あえて希望的な見方を入れて事業化してほしいなという願望も込めて2012年と答えた。しかし、日経新聞は富士通研ではなく、富士通が2012年に実用化すると書いている。厳密な事実関係から言えば、これは正しくない。富士通研究所が言ったことを富士通が言ったと書いているからだ。

日経以外のメディアは、そのことを踏まえたうえで、別のタイトル、すなわちニュースの切り口を書いている。すなわち、富士通がワイヤレス給電用の新しい設計解析技術を開発した、ということ。これは正しい。しかし、何がニュースか、というニュースの視点となると、EDN JapanおよびTech-Onが最も適切なタイトル表現だろう。EE Times Japanは企業名を主語としない一般解説としての扱いとしている。すなわちニュースの視点という意味では、5W1Hの主語を落としたことになる。

しかし、技術の内容を最もよく把握しているという意味では、EE Times Japanだろう。というのは、記者会見の発表だけではわからない点を補足しているからだ。Tech-Onで書かれているように、記者会見では「解析に長い時間が掛かるのは、共振器のコイルとコンデンサの両方を一緒にして電磁界シミュレータを解析させていたためである。そこで今回、富士通研究所はコイル・モデルを解析する電磁界シミュレータとコンデンサ・モデルを含めて共鳴状態を解析する回路シミュレータの二つを使った、連成解析を行うことになった」と会見では述べた。しかし、この説明で納得できるエンジニアはどのくらいいるだろうか。私はこれだけでは全く理解できなかった。だから、担当者に質問した。

EE Times Japanは、コンデンサを外付けして共振させた、と書いてある。これによって、これまで浮遊容量を分布定数回路で表していたのに対して、集中定数回路として解析的に解けるようになった。分布定数回路を級数展開して数値解析すると膨大な時間がかかることはエンジニアなら誰でも知っている。数値計算ではなく解析的に解けるのであれば、計算時間はぐっと短くなる。ここが今回の発表のキモである。そこで私は「手前味噌」のようで申し訳ないが、セミコンポータルの記事タイトルに、キモとなった「集中定数回路モデル」という言葉を使った。セミコンポータルの主力読者であるエンジニアならこちらの方がよりわかりやすいだろうと信じている。

最後に、将来の成長戦略に向け一つだけ気になったニュースは、「GEやフィリップス、高齢者の安否ネット確認に参入」という16日付けの日経の記事だ。世界一の長寿の国ニッポンは実は海外から見るとなぜ長寿なのか高い興味を持って見られている。日本では、独特の医療界、ヘルスケア業界、医療機器分野や大病院、厚生労働省など参入バリヤが非常に高い。だからこの分野に参入しようとする日本企業は少ない。しかし、そこをついて何とかこのバリヤを打ち破り参入しようとしているのが外国勢だ。

ヘルスケア分野に進出するクアルコムのやり方を報じた7月23日のセミコンポータルの記事(参考資料4)では、バリヤの一つ、厚労省のOBを巻き込みながらヘルスケア産業に参入する姿を描いた。この分野はバリヤが高いからといって躊躇していると、あっという間に外国勢に支配されかねない。何とかしてバリヤを突き破る仕掛け、ビジネスモデルなどを早く考え出し、実行していくことが急務である。この分野は未来が見える確実な産業であるからだ。

関連資料
1) 菅直人新政権に対する期待、成長産業を見分ける眼をもってほしい (2010/06/07)
2) 富士通研究所ニュースリリース
3) 富士通研、集中定数回路モデルでワイヤレス給電設計時間を1/150に短縮 (2010/09/14)
4) クアルコム、血圧測定データを医師に届ける通信機器の実用実験を開始 (2010/07/13)

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