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半導体の供給不足が続くのに複数購買の手を打たなかったECUメーカーの教訓

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先週はまず、7月13日付けの日本経済新聞において、半導体ICの供給不足のため日産自動車が4工場で3日間生産停止を余儀なくされる、というニュースから始まった。さらに14日にはテキサス・インスツルメンツ(TI)が会津若松にあるスパンション・ジャパンの工場を買収、15日にはオン・セミコンダクターが三洋半導体を買収するというニュースがあふれた。

半導体ICは2010年の第1四半期(1〜3月)に稼働率が93〜94%と極めて高く、平常時の稼働率の高い状態の89〜90%というレベルよりも4〜5%も高かった。今でも生産現場は余裕が全くないという状態が続いている。金融危機のあとすぐに設備投資できなくなると同時に、生産能力を下げたのにもかかわらず、在庫ゼロの状態を解消しようとICを求めるようになってきているからだ。今では、2重、3重に発注するケースが当たり前になってきており、実需よりも発注量が多いという状態が続いている。

今回、日産自動車にICを搭載するECU(電子制御ユニット)を提供している日立製作所と日立オートモーティブシステムズがECUの納期遅れを発表した。7月12日付けのニュースリリースによると、カスタムICの納期遅延により日産へのECUの納期も遅れ、日産に生産調整をお願いしているというもの。13日に日経に加え日刊工業新聞からもニュースが掲載された。

翌14日にはカスタムICは欧州STマイクロエレクトロニクスから購入したもので、コイルドライバICだと判明した。日経は、STからの説明がなかったとして、半導体メーカーが悪いという日立の取材だけで書いた内容になっている。

しかし、半導体の専門家なら誰でもコイルドライバをカスタムICとは言わないだろう。ほぼ汎用品といえる品物だ。もしわずかな部分をカスタマイズしているとしても汎用品でECUを作れないことはない。日刊工業には「コイルドライバは汎用品もあるが、カスタム発注にして1社供給にした方が割安になるため特定ICとして調達していたという」と書かれている。このことが事実かどうかわからないが、わずかな部分のカスタマイズなら汎用品での設計を進めておくべきだろう。

半導体ビジネスの常識から言えば、コイルドライバ程度の汎用ICなら複数社購買するのが基本中の基本である。ICユーザーがこのような常識を知らないとすれば、むしろユーザー側に大きな問題がある。ICチップは1995年を境に単価が下がってきている。低価格化へのプレッシャーが強まってきたからだ。電子システムをIC化することで低コスト化だけを求めるようではその品質と信頼性に疑問を生じる。自動車メーカーは日産にせよトヨタにせよ、ミッションクリティカルな制御部分にはECUを2重化する、フェールセーフシステムを採用する、といった安全への配慮をたとえコストが倍増しても行っている。にもかかわらず、ECUメーカーが2重発注あるいは2社購買といったリスク回避を行っていないのなら、エンドユーザー(自動車メーカー)への配慮を無視したとしか考えられない。

現在、半導体メーカーはどこも稼働率いっぱいの状態であるため、半導体メーカーに価格プレッシャーだけを与えてきたICユーザーこそ、今回の事件はその先の顧客への配慮を行うべきだという教訓だと思う。

先週二つの買収劇は、いずれも雇用を確保してくれそうな意味で歓迎すべきことだと思う。NOR型フラッシュメモリーの生産を行っているスパンション・ジャパンは、現在、更生計画にあり、その再建が注目されていた。今回、TIが会津若松のほぼすべてのスパンション・ジャパンの従業員に対して雇用を提示する計画であると発表した。

TIは、アナログIC製品を強化している最中で、テキサス州リチャードソンにある300mmの工場(RFAB)をアナログICに転用してきており、さらに拡張計画のフェーズ2を進めている。会津の300mmラインに設置されている製造装置の多くをRFABに移転させることで、RFABのフェーズ2計画を支援できるとしている。会津工場にある200mmと300mmの製造装置のうち、TIのアナログプロセスとは整合性のない装置に関しては売却する予定だとしている。

もう一つの三洋半導体の売却先はオン・セミコンダクターに決まった。買収金額は330億円。直近の四半期売り上げを年換算すると三洋半導体の売上高は12億ドル(1080億円)であるから、オン・セミから見ると安い買い物だったといえよう。もともとディスクリートを中心にモトローラから分社化したオン・セミにとって、三洋半導体の買収により製品ポートフォリオをASICやパワーICへと広げることができ、ディスクリート、それを制御するアナログIC、簡単なデジタルLSIなどこれからの環境ビジネス、再生可能エネルギーを制御する半導体ビジネスへと成長戦略を描けるようになる。

(2010/07/20)

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