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鴻海精密の中国工場で明らかになった、中国はもはや低賃金の国ではない事実

今週のニュース解説では、最近ずっと気になっていた中国における賃金の問題を取り上げる。世界トップのEMS企業である台湾の鴻海精密工業(英文名フォックスコン)の中国工場において自殺者が10数名に達したことから中国における賃金格差の問題が浮き彫りになってきた。もう一つはサムスンのファウンドリ事業が新聞記事に載るようになったこと。

EMS(電子製造サービス請負ビジネス)としての鴻海精密(ホンハイプレシジョン)の年間売り上げは今や、510億ドルと第2位フレクストロニクスの230億ドルを圧倒的に引き離している。その原動力は中国に工場を置き、低賃金をベースにした製造請負工場である。鴻海は、正社員一人当たりの年間売り上げが3億円前後に達した時期もある超優良企業であった。その鴻海の中国工場、フォックスコンにおいて工場の建物から飛び降り自殺する労働者が10名を超え、社会問題化していた。

鴻海精密は、大量少品種をベースとした製造請負企業であり、アップルのiPhoneやiPad、ノキアの携帯電話、HPのパソコンなどを大量生産している。アイサプライによると、EMS企業は半導体デバイスの出荷先の20%にも相当する数に上ってきているという。携帯電話やスマートフォンだけではなくパソコンやデジカメなど数の出る商品を生産しており、競合メーカーの製品を作っているため、工場の管理は極めて厳しいと聞く。生産ラインは顧客ごとにきちんと分けられ、各工場の従業員同士が絶対に行き来出来ないように出入り口を別にしているといわれている。トイレに立つ時や食事で抜けるときも何分後には戻ってくることを約束させられるようだ。

厳しい労働環境と安い賃金がその背景にある。かつては月給数千円でも故郷の田舎における収入よりもマシだったから、上海や広東省での工場で喜んで働く中国人が多かった。しかし、今は月給1万4000円でもひどく安い、というレベルにまで高まっている。本日の日刊工業新聞によると、2010年1月時点における賃金は北京で370ドルとなり、ベトナムハノイでの100ドルや、インドネシアジャカルタでの150ドルと比べても高くなった。比較的インフラが充実し労働環境の良いマレーシアのクアラルンプールでさえ250ドルであるから、北京の賃金がいかに高いかよくわかる。中国では北京、上海、深センなどが賃金の高い都市である。

結局、鴻海精密は基本給を30%上げることで解決を図ろうとしている。中国における賃金上昇は日本のホンダにも影響が及んでいる。ホンダは鴻海と同じ時期に賃上げストライキを受け、20%アップを決めたという。

中国における労賃が上がると中国で生産する意味が薄れてくる。鴻海精密は、東南アジアや南アジアに工場を移転させることを検討し始めたと8日付けの日経新聞は伝えている。パソコン生産世界2位のエイサーでさえもかつては中国からフィリピンへ生産をシフトしたことがある。かつてのコンパックは中国で売り上げを8カ月も回収できないという目に会った。中国は、グーグルの1件でも見られるように政治的には共産主義国であり、言論統制の国である。中国における正しい姿を伝えることは実に難しい。

5月6日のセミコンポータルにサムスンのファウンドリ戦略を掲載したが、11日の日経新聞には新しい情報を伝えている。米テキサス州オースチンに36億ドルを投じてシステムLSIの生産ラインを作るという。計画では、2011年4〜6月期に稼働、11年末までに設備増強を終えるとしている。

この5月のサムスンの記事は、テクノロジー分野で初めてページビューランキングのトップにきた、セミコンポータル会員の関心の高い記事である。取材では、広報部門も同席しており、サムスンがこれから微細化したファウンドリビジネスに力を入れることを公式に宣言した。取材時点では、生産は器興工場で行い、オースチンではカスタマサポートに注力し生産はしないと答えていたが、今回サムスンはこのほどオースチンにも生産ラインを作ることを発表したもの。

(2010/06/14)
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