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やっと始まった国内半導体企業のグローバル化、ファブライトビジネス戦略

今朝の日本経済新聞に掲載された、「東芝、生産を海外委託」という記事から始まり、半導体企業の新たなビジネスモデルとグローバル戦略が次々と浮き彫りにされている。先週、富士通のグローバルな提携の話が新聞紙上をにぎわしたが、そのベースは8月28日に報じた「昨日の敵は今日の友、28nmプロセスをTSMCと共同開発する富士通マイクロエレ」である。

このニュース解説では、先週のニュースをベースに解説しているが、本日は東芝以外にもう1本ビッグニュースが飛び込んできた。中東アブダビに本社を持つ、投資会社ATIC(Advanced Technology Investment Company)がシンガポールのチャータード社(Chartered Semiconductor Manufacturing)に対して買収提案を行った。チャータードの株主の承認やシンガポール高等裁判所の認可をもらう必要があり、シンガポール証券取引所にもその旨を伝えた。この提案は1株当たり2.68シンガポールドル、総計56億シンガポールドル(39億米ドル)になる。2009年末までの決着を期待している。

東芝のニュースはSoCなどのシステムLSIの最先端な微細化プロセスは海外のファウンドリを使うことである。日経新聞によればチャータード社を軸にファウンドリを企業の候補に入れるとしており、そのチャータードが買収対象になっていることから事態がどう変わるか、見守りたい。東芝にとってシステムLSI事業部門は残念ながら利益を出しているわけではなく、NANDメモリーに頼ってきた。この不況で頼みのNANDフラッシュまでも売れ行き不振になったため多額の赤字を計上してしまった。SoCを単なるファブライトに移行するビジネスモデルに終わるのではなく、SoCに搭載するソフトウェア開発を外部に広げるのか、従来通り内部で行うのかによって、ビジネスの成長性はがらりと違ってくる。これに対する答えは新聞報道では見かけない。東芝のNANDフラッシュメモリーは従来通り、垂直統合ビジネスモデルで行く。

海外企業とのコラボレーションはますます活発になっていく。富士通が欧州のソフト開発会社を買収し、米国のフリースケールセミコンダクタからRF技術を購入したことを先週の新聞では伝えている。RF技術は携帯電話だけではなく、すべてのワイヤレス技術の基本となる。通信だけではなく、コンピュータ、産業機器、民生機器、医療ヘルスケア機器、自動車などありとあらゆる分野でさまざまな機器がワイヤレス技術を使うため、RF技術の中核を抑えることはこれから成長するためのカギを持つことになる。

日経新聞によると、3.9G世代の携帯電話規格と言われるLTE(フランスはLTEから4Gと定義している)に対応するRF回路の開発も進めるとあるが、富士通は8月26日の記者会見で、WiMAXの基地局向けチップは捨てることを発表している。

東芝がアムコアテクノロジー、仲谷マイクロデバイスとともに後工程の合弁会社を設立することを4月28日に発表していたが、先週の発表はこの繰り返しに過ぎなかった。ただし、一つだけ違ったのは会社名がジェイデバイスとなったことだ。

グローバル活動に関して、9月3日付けで日立製作所がLTEの研究開発拠点を米国のダラスに新設したと発表した。破産保護を申請したカナダのノーテル社からも関連技術を取得しており、KDDIからもシステムベンダーに選ばれているという。日本市場だけではなく北米市場でのLTE時代に備える。

6月22日のニュース解説「半導体製品の営業力を増強する動き、高温半導体開発とその問題点を議論する」において、日本TIが国内に半導体の営業拠点を5倍に増やすというニュースを紹介したが、このほど仙台、松本、金沢、福岡に営業所を9月1日に設立したことを発表した。TIは日本市場への浸透をますます充実させるため、顧客により近い場所に営業担当者だけではなくフィールド・アプリケーション・エンジニアも置く。これにより顧客の望むシステムを技術サポートやソリューションの提供、試作支援を通して、より的確により早く次の製品のニーズをつかむことができる。

その一方で、新型CPUの規格を統一して日本勢が結束しようという、まるで時代遅れの動きもみられた。今やCPUに付加価値のある時代ではない。CPUは市販のARMでもインテルでも良いが、周辺回路で付加価値、すなわち差別化技術を取り込む時代になっている。それを実現するのはハードウェアでもいいしソフトウェアでもいい。スーパーコンピュータでさえ、市販のCPUを多数使い、並列処理する方式で計算し、ボトルネックのバスをAMDのHyperTransport やインテルの高速バスを使うことで解消し、高速コンピュータを実現する時代になっている。

(2009/09/07)
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