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インテルのウィンドリバー買収により、組み込み市場支配の意図みえみえ

6月最初の週は、半導体産業の未来を描くニュースが多く、全て詳細な紹介はできないが、その概要だけでもお伝えしたい。ピックアップすると、インテルのウィンドリバー買収、日立・東芝のスマートグリッドへの参入、家電量販店のヤマダとビッグカメラがWiMAXネットワークに参入、三菱自動車が電気自動車i-MiEVを7月下旬に発売、そして太陽電池市場は日本が成長・欧州が縮小、と盛りだくさんだった。すべて半導体市場の未来を切り拓く話である。

インテルのウィンドリバー買収はどのような意味があるだろうか。そもそもウィンドリバーとはリアルタイムOSの会社で最近ではリナックスにも力を入れているOSソフト企業である。マイクロソフトと同じOS企業だ。マイクロソフトがこれまでパソコン用のOSを開発してきたのに対してウィンドリバーはパソコン以外のデジタル家電や自動車、などいわゆる組み込み機器向けのOSを開発している。パソコン時代にはインテルはマイクロソフトと組んでウィンテルと揶揄された。

もはや時代はパソコン主体ではない。インテルは組み込み系分野にも参入しようとし、Atomプロセッサを開発してきた。いわゆるネットブックに使われているAtomプロセッサのOSは依然としてマイクロソフトのWindows XPが多い。しかし携帯ノートパソコンが従来並みに起動が遅く、重ければ使いにくい。先週台湾で行われたComputex台北では世界第2位のノートパソコンメーカーに成長した台湾のエイサーが、グーグルのOS「アンドロイド」を載せたパソコンを発表した。携帯機器ではシンビアンOSも欧州では普及しており、Windowsに代わる新しいOSのバトルが組み込み系システムでは始まっている。どれが主流になるかわからない。インテルがリアルタイムOSのウィンドリバーを買収すれば、インテル1社でスマートブックやネットブックを支配できる可能性が開けてくる。さらばマイクロソフト、さらばウィンテル、こんにちはインテルのみ、になる。

半導体のSoCや高集積LSIではハードとソフト、アナログを搭載することで差別化できる商品を創造できるが、ソフトの部分もハードメーカーが抑えるというのがインテルの狙いだ。逆に、グループウェアなどで有名なオラクルがコンピュータハードのサンマイクロシステムを買収したニュースについては以前に解説したが、同様にハードとソフトの両方を抑えようとの狙いがある。この先、インテルはどう動くか。アナログメーカーの買収だろう。ハードとソフト、アナログが今後のLSIのカギを握るからだ。現に今インテルは高周波アナログ(RF)回路の開発に力を入れている。

スマートグリッドとは、電力会社の送電網を昼と夜の電力を平準化しようとするもので、次世代送電網とも言われている。昼夜を問わない電力平準化はCO2削減につながり、化石燃料への依存度を下げる。具体的には、送電網と並列に光ファイバ通信網を東京電力などの電力会社が形成しているが、光ファイバ網を使って電力量を監視し、送電網にある既存の発電所や太陽光発電所、電気を溜める蓄電設備を使って電力の送りと受けを制御する。昼間のように電力を消費するときは、これらの設備から電力を送り、夜間のように電力消費が少ない時間帯は蓄電設備に電気を溜めるというわけだ。

今回NEDOが実施主体となり米国のニューメキシコ州内の1000世帯を対象に実験を行う。米国ではオバマ政権がスマートグリッド計画に45億ドルの研究開発費をつぎ込むことを表明している。日立製作所や東芝が参加していれば米国が本格稼働するときに参入しやすい。スマートグリッド計画では情報の制御と送電技術が必要となるため電力系企業とIT企業とが参加するが、制御系も電力系でも半導体は欠かせない。市場開発は狙い目だろう。

家電量販店2社がWiMAXに参加するということは、「いつでもどこでも高速無線インターネットを使えます」というセールスポイントを生かし、ノートパソコンやスマートブック、ネットブックなどの売り込みを促進する。しかも消費者は通信キャリヤとは契約しなくて済む。量販店側がKDDI系WiMAX業者であるUQコミュニケーションズからWiMAX回線を借りることで、消費者の利便性が上がり、さらに価格も個別にUQと契約するよりも安く設定していれば消費者も得になるという仕組みができる。量販店は端末の通信料を消費者からいただくことでパソコンの価格を抑えることができる。半導体メーカーにとってはWiMAX用RFやベースバンド、アプリケーションプロセッサ、さらにはWiFiやBluetoothとのコンビなど、新しい市場が開けてくる。


三菱の電気自動車i-MiEV


電気自動車がいよいよ市販される。電気自動車はガソリンを全く使わないためCO2の排出量はまさにゼロ。問題の価格は、459万9000円だが、政府からの補助金139万円が出るため、実質320万9000円が車両価格となる。ただ、ハイブリッド車と比べるとまだ高い。家庭用の100V電源で充電できるが、連続走行距離はまだ160kmしかない。ただし、石油と比べて10km走行にかかる燃料費すなわち電気代は10円と安い。

電気自動車は1個当たり3〜4Vのリチウムイオン電池を数10〜100個直並列に並べて300〜400V、100〜200Aのパワーを出す。IGBTやFETなどのパワー半導体だけではなく、それらをドライブする半導体やコントロールするマイコン、さらには電池そのものを1個1個制御して安定な電力を供給できるようにするICなども必要とされる。例えば米国のリニアテクノロジーは最大12個までのリチウムイオン電池を均一な電圧、電流を出力するための制御ICを販売しており、日産自動車は「人とクルマのテクノロジー展」で電池を1個ずつ制御するリチウムイオンバッテリモジュールを開発していると述べており、リニアのチップを使っている可能性は高い。電気自動車は半導体メーカーにとって新たな市場となる。

太陽電池は世界的な景気後退により欧州市場で売り上げが落ちており、最大手のドイツQセル社は1〜3月期は最終赤字を計上したという。反面、日本では補助金を復活させ、1〜3月の国内出荷量は前年同期比で18%増加した。欧州への出荷量は同19%減ったとしている。国内では補助金に加え、太陽光の売電を2倍の価格に上げる方針を経済産業省が固めたというニュースを6日の日本経済新聞が伝えている。ただし、電力料金の値上げが前提となっており、法案が決まるまでにまだ紆余曲折があるものとみられる。

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