SiCウェーハの生産量は2023年も22%成長の見込み
2023年の世界半導体市場は10%程度のマイナス成長になりそうだという見通しの中、車載向けだけはプラス10%程度の成長が予想されている。中でもパワーMOSFETに使うn型SiCウェーハの需要が増えている。2022年には前年比15%程度の成長を示したが23年も22%成長、さらに2027年まで年率平均17%で成長し続けそうだ。
図1 SiCウェーハ枚数の推移 出典:TECHCET
SiCウェーハ成長の見通しを発表したのは半導体材料市場専門の市場調査会社TECHCET(参考資料1)。6インチ(150mm)換算で2022年には88.4万枚のウェーハが出荷され、23年は107.2万枚に増加すると予想する。
SiCウェーハの需要が高まるのは、大電力あるいは高速の応用機器向けのパワーデバイス向けSiデバイスが物理的限界に近付いてきたからだ、とTECHCETは見ている。SiのIGBTがパワーデバイスの中心をこれまで占めてきたが、さらなる高速・大電力ではもはや限界という訳だ。SiCは結晶性が着実に上がってきて電子移動度が上がり、MOSFETの電流容量が向上してきた。サプライチェーンも充実してきた。加えてSiC需要は電気自動車(EV)だけではなく急速充電機や再生可能エネルギー、産業用パワー機器の高効率化などで高まりつつある。
急速充電器では800〜900Vに昇圧して電荷をバッテリに送り込むためトランジスタの耐圧として1200Vが必要になる。再生可能エネルギーではソーラー、風力とも直流から商用周波数(50/60Hz)の交流を作り出すため高耐圧トランジスタの正確なパルス動作が必要で、それを6600Vの架線に戻す必要がある。耐圧が高ければ高いほどパワートランジスタの数は少なくて済むため、SiCの優位性が出てくる。IGBTで650Vなら、1200VのSiCは縦列接続の数を半減できる。産業用でも高電圧が必要な機器、例えばイオン打ち込み装置や加速器なども同様に高耐圧特性が生かされる。
生産量が増えてきた一因には、SiC結晶ブール(Siのインゴット相当)を製造するメーカーが増えていることも影響している。Wolfspeedやonsemi、STMicroelectronicsなどのSiCデバイスメーカーが結晶も作るという垂直統合型へ動いていることも奏功している(参考資料2)。
また、X-trinSiCやHalo Industriesのように、SiC結晶ブールからウェーハにスライス、エッジ研磨、表面研磨、洗浄、エピタキシャル成長など、デバイスのプロセスに必要なウェーハを加工する専門業者も出てきた。SiCはシリコンと違い、ダイヤモンド、BNなどに次ぐ固い材料であり、さらに化学薬品に腐食しにくい材料でもあるため、Siと同様のプロセスは使えない。SiC専用のプロセス装置が必要となる。
参考資料
1. "Silicon Carbide (SiC) Wafer Supply Gets Squeezed", TECHCET (2023/05/09)
2. 「SiCパワー半導体、サプライチェーンからOEM確保まで垂直統合化へ動く」、セミコンポータル (2023/04/27)