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中国が半導体に巨額の投資を行う理由

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米市場調査会社のIC Insightsは、最近の中国における半導体投資を第3次と位置付けている(参考資料1)。第1次は1990年代から2000年にかけてのファウンドリ設立、第2次が2000年から2000年代半ばまでのファブレス半導体の強化、そして第3次が最近の国産ICメーカーの設立や海外企業の買収だとしている。

図1 中国におけるIC生産額と市場規模 赤い点が市場規模で青い点が国内生産額 出典:IC Insights

図1 中国におけるIC生産額と市場規模 赤い点が市場規模で青い点が国内生産額 
出典:IC Insights


中国の第1次半導体ブームにおいて工場やファウンドリの設立では、NECと地元Hua Hong社との合弁、Grace Semiconductor、XMC、そしてSMICなどが設立された。Graceはその後Hua Hongに買収されたが成長できず、中国のファウンドリ企業は総じて成功しなかった。

第1次ブームで設立されたファウンドリに仕事を発注するファブレス半導体企業の支援を始めたのが第2次だ。これも成功したとは言えず、2015年における世界のファブレス半導体トップテンランキングの中で、6位にHiSilicon、10位にSpreadtrum社がスマートフォン用のアプリケーションプロセッサとベースバンドICの企業として入っているだけ(参考資料2)。第1位のQualcommの160億ドル、第2位Avago/Broadcomの139億ドル、第3位MediaTekの65億ドルに対して、6位のHiSiliconは38億ドル、10位のSpreadtrumは18.8億ドルとその差は広い。しかも、QualcommやMediaTekのような大手とまともに競争するため、低価格だけで独自性に乏しい。この結果、IC Insightsはファブレスビジネスは成功しなかったと断じている。

昨今の第3次では国産半導体工場の設立や半導体メーカーの買収を目的とするのは、中国における半導体の輸出入貿易において、過度の輸入超過になっている状態を逆転させるためだ。特に2015年は半導体の輸出額は900億ドルに対して、輸入額は2400億ドルとなっており、その差は1500億ドルすなわち16〜17兆円にもなる。すなわち、中国から毎年16〜17兆円相当のドルが流出していくのである。これほどの輸入超過は、中国にとって好ましくない。

7月28日には、中国の国営ファンドである紫光集団が、中国のメモリチップメーカーXMCを買収すると発表した。XMCは設立後10年経過してもファウンドリやNORフラッシュメモリビジネスがさほどうまくいっていないため、NANDフラッシュに切り替えて、NANDフラッシュメーカーとして世界と渡り合えるようにしたいと台湾の市場調査会社DRAMeXchangeは見ている(参考資料3)。Samsungや東芝の脅威になるか、目が離せない。

さらに中国にとって悪いことに、米国のICメーカーが中国の通信機器メーカーZTEへの輸出禁止を求める決定を商務省がおこなった。これは米国が最も懸念している、中国からイランへの通信機器の輸出を止めるためだ。米国はイランへの貿易制裁を加えているものの、その抜け道を案じている。今のところ、8月30日まで製品輸出を禁止している。

米国製のICでさえ中国で入手できなくなれば、中国はなおさら自国で製品を作らざるを得なくなる。中国の視点で見ると、半導体に4兆円や5兆円を投資しても、毎年16〜17兆円相当のドル流出を黙って見ているよりはましだということなのだろう。

参考資料
1. China’s Final Chance to Achieve Its IC Industry Ambitions Now Underway (2016/07/26)
2. 2015年ファブレス半導体トップテンランキング (2015/12/04)
3. Tsinghua Unigroup and XMC Team Up to Strengthen China’s NAND Flash Industry, TrendForce Reports (2016/7/28)


(2016/07/29)

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